著者
柏木 めぐみ 大石 千理 村田 和優 尾崎 秀宣 山田 哲也 金勝 一樹
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.91, no.2, pp.120-128, 2022-04-05 (Released:2022-03-29)
参考文献数
14

水稲の種子温湯消毒法において,温湯処理前に種籾の水分含量を10%以下にする(事前乾燥処理) と高温耐性が強化され,防除効果の高い高温域の65℃での消毒 (高温温湯消毒) が可能となることが示されている.「高温温湯消毒法」を安定した技術として普及させるためには,実用的な事前乾燥処理法を確立することが重要である.そこで本研究では,種籾を乾燥機で加温して事前乾燥を行うときの処理条件について検討した.温湯消毒時の高温耐性が低い「日本晴」の種籾を40~60℃で最長72時間加温して事前乾燥を行なった結果,①温度が高い方が短時間で効率的に乾燥でき, 40℃の乾燥では水分含量を10%以下にするまでには12時間要する場合があること,②40~50℃の乾燥では水分含量8%程度までは急激に乾燥するが,その後の水分の減少は緩やかになり,50℃で24時間乾燥させても7%以下にはならないこと,③水分含量が7%を下回っても発芽能に影響はなく,高温耐性は強化されることなどが明らかになった.しかしながら60℃で72時間乾燥させた場合には発芽能が低下する試験区もあった.さらに温湯消毒時の高温耐性が高い「コシヒカリ」の種籾を50℃で水分含量9.5%以下まで乾燥させた場合には, 72℃・10分間の温湯処理でも, 90%以上の発芽率を確保できた.以上の結果から,「日本晴」と「コシヒカリ」の種籾の高温温湯消毒を実施するための事前乾燥処理の条件としては,「40~50℃の温度で12~24時間乾燥処理して水分含量を7~9.5%とすること」が最も適していると結論付けた.
著者
柏木 めぐみ 村田 和優 ペルマナ ハディアン 山田 哲也 金勝 一樹
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.86, no.2, pp.177-185, 2017-04-05 (Released:2017-04-14)
参考文献数
17
被引用文献数
2

化学農薬を使用しない水稲の種子温湯消毒法は,クリーンな技術として注目され,「60℃で10分間」という処理条件が広く普及している.しかし,この条件では完全に防除できない病害もある.したがって,この消毒法を安定した技術とするためには,多くの品種に高温耐性を付与し,より厳しい条件で処理できるようにすることが重要である.温湯消毒時の種籾の高温耐性には明らかな品種間差があり,この形質は育種学的な手法で改善できる可能性がある.例えば,日本型品種の「ひとめぼれ」の種籾は強い高温耐性を有することが示されている.一方で,インド型品種や糯米品種は一般に種籾の高温耐性が弱く温湯消毒に適さないことも報告されている.これらのことを踏まえて本研究では,「ひとめぼれ」のような有用な遺伝資源となりうる品種を見出すことを目的に,農業生物資源ジーンバンクが確立した「世界のイネコアコレクション」の種籾の温湯消毒時の高温耐性を評価した.その結果,日本型品種の「Rexmont」と「Tupa 729」,インド型品種の「Badari Dhan」の3品種の種籾が,極めて強い高温耐性を有していることが明らかになった.さらに,「Badari Dhan」以外のインド型品種や,糯米品種の中にも「ひとめぼれ」と同等,あるいはそれ以上の高温耐性を示す種籾が存在することが明らかとなり,温湯消毒時の高温耐性に関して有用な遺伝資源となり得る複数の品種を特定することができた.