著者
マンソン ベンジャミン コイン アレキサンダー
出版者
日本音声学会
雑誌
音声研究 (ISSN:13428675)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.48-59, 2010

/s/から/∫/の連続体が聴取者に提示される場合,摩擦音は女性が発した母音と組み合わせた場合のほうが男性の発した母音と組み合わせた場合よりもより/∫/と同定されることが先行研究から明らかになっている。また,その効果が最も顕著に現れるのは,話者が非典型的な女性や男性と判断される場合よりも典型的な女性や男性の声と判断される場合であるとされている(Strand and Johnson 1996,Munson et al.2006)。本研究では/sigh-shy/と/sigh thigh/の連続体の聴取者の判断を測定することによってこの現象について更に検討した。刺激語は男性と女性が自然に発話した/<aI>/に/s/-/∫/と/s/-/θ/の連続体を結合し,基本周波数やフォルマント周波数を上下にデジタル修正して作成した。実験は話者情報を何も知らないグループ(/unbiased/),刺激語は全体的な声の高さが変化していると告げられたグループ(/height biased/),そして刺激語は話者のさまざま年齢が違うと告げられたグループ(/age biased/)という3つのグループで行われた。その結果,二種類の摩擦音の連続体は男性と女性の/<aI>/と組み合わされた場合に異なる知覚がなされることが明らかになった。フォルマント周波数と基本周波数の変化度合いは両方の刺激語の連続体の知覚に影響を及ぼしたが,/s/-/∫/のほうが/s/-/θ/よりもその影響が強かった。また,年齢にバイアスがあるグループは声の高さにバイアスがあるグループよりもバイアスがないグループと反応パターンに類似していた。このことから,フォルマント周波数と基本周波数の変化は声の高さの違いよりも年齢の違いにあらわれていると解釈することができる。
著者
米山 聖子 マンソン ベンジャミン
出版者
日本音声学会
雑誌
音声研究 (ISSN:13428675)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.35-47, 2010

本論文は英語を学習している日本人成人の音声語彙認識における語彙頻度,語彙親密度そして音韻的近傍密度の影響の研究に関する最初の報告である。研究には,英語力が低い東京または埼玉在住者,英語力が高い米国ミネアポリス在住者,そして米国ミネアポリスに在住の英語母国語話者の3つのグループの聴取者が研究に参加した。Imai,Walley,and Flege(2005)に従い,英語母国語話者もしくは日本語母国語話者で日本語アクセントのある英語を話す話者が発した音韻的近傍密度と語彙頻度を直行に変化させた80語を聴取者に提示した。音韻的近傍密度と話者の母語言語の強い影響がすべてのグループで見られた。その上,英語力が高い日本人聴取者は他の2つのグループよりも,アクセントを持つ話者が発した語を聴取する場合の知覚の減少が少なかった。しかしながら,刺激語を厳密に分析してみると,母音と子音は条件にランダムに分布しているわけではなく,非英語母国語話者が犯した特定のエラーは近傍密度の高い語に偏って現われている母音に起こることが明らかになった。今後の研究への提案も行う。