著者
米山 聖子 マンソン ベンジャミン
出版者
日本音声学会
雑誌
音声研究 (ISSN:13428675)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.35-47, 2010

本論文は英語を学習している日本人成人の音声語彙認識における語彙頻度,語彙親密度そして音韻的近傍密度の影響の研究に関する最初の報告である。研究には,英語力が低い東京または埼玉在住者,英語力が高い米国ミネアポリス在住者,そして米国ミネアポリスに在住の英語母国語話者の3つのグループの聴取者が研究に参加した。Imai,Walley,and Flege(2005)に従い,英語母国語話者もしくは日本語母国語話者で日本語アクセントのある英語を話す話者が発した音韻的近傍密度と語彙頻度を直行に変化させた80語を聴取者に提示した。音韻的近傍密度と話者の母語言語の強い影響がすべてのグループで見られた。その上,英語力が高い日本人聴取者は他の2つのグループよりも,アクセントを持つ話者が発した語を聴取する場合の知覚の減少が少なかった。しかしながら,刺激語を厳密に分析してみると,母音と子音は条件にランダムに分布しているわけではなく,非英語母国語話者が犯した特定のエラーは近傍密度の高い語に偏って現われている母音に起こることが明らかになった。今後の研究への提案も行う。
著者
米山 聖子 北原 真冬
出版者
日本音声学会
雑誌
音声研究 (ISSN:13428675)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.30-39, 2014-04-30

英語母音の持続時間が有声子音の前では無声子音の前よりも1.5倍ほど長いという現象は,一般に有声効果(voicing effect)と呼ばれ,英語特有の現象とされてきた。しかしながら,多くの実験結果から,有声効果は英語のみならず他言語にも見られることが明らかになってきた。例えば,有声効果は普遍的な音声メカニズムに起因するという考えがある一方で(Ko 2007),英語の1.5倍という効果の大きさには個別文法が関係しているという見方(House 1961)もある。本稿では,まず普遍的なメカニズムに起因するという仮説を検証するため,NTT乳幼児音声データベース(Amano,Kondo,Kato and Nakatani 2009)と日本語話し言葉コーパス(Maekawa 2003)を用いて幼児および成人の日本語話者における有声効果の有無を検証した。その上で,英語の大きな有声効果を日本人英語学習者が獲得可能であるかどうか,習熟度によって分けた2群の被験者の産出データから検討した。その結果,有声効果は普遍的・音声的な基盤を持ちながらも,言語個別の音韻特質によって抑制・促進されうる可能性が高いことを明らかにした。