- 著者
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モーエン ジョン V.
- 出版者
- 北海道東海大学
- 雑誌
- 北海道東海大学紀要. 人文社会科学系 (ISSN:09162089)
- 巻号頁・発行日
- vol.4, pp.203-214, 1991
反シオニズムと反セミティズムという用語は殊にアメリカにおいては必ずしも正しく区別していない。厳密に言えば, シオニズムには宗教的, 文化的, 政治的側面という三つの側面があるが, いずれにしても, この二つの用語の区別は長年にわたって曖昧である。私見によれば, むしろ意識的に曖昧にされているとさえ言えるが, これは特に自己の利益のためにも出来るだけイスラエルを敵にまわしたくないと考える人びとの意図するところである。この賢明ともいえる曖昧さのために前述の二つの言葉が文字通り同義語のように扱われるのである。本稿では, 宗教的, 文化的側面からみたシオニズムと比べて政治的シオニズムはかなり後発的なものであることを思い起こせば, 当然, これらの言葉は区別できるという立場をとっている。ある意味では, それはホロコストの恐怖に対する反応であり, 充分正当化できる。また別の意味では, 何世紀にもわたって他の民族が占領してきた土地をめぐる, 歴史的不幸の産物でもあった。本稿は, ユダヤの国家がかかえる最大のジレンマを, その発生, 否, それ以前にもさかのぼって検討する。そのジレンマとは, 限られた地でいかにアラブの兄弟たちと調和を保って生きるかということであり, これほどやっかいな問題は他に類をみない。