著者
一瀬 貴子
出版者
関西福祉大学社会福祉学部研究会
雑誌
関西福祉大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:1883566X)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.17-26, 2013-09

本稿の主な目的は,家庭内高齢者虐待発生事例の家族システム内機能や構造の変容に対して,社会福祉士が活用する効果的なソーシャルワーク実践スキルを明らかにすることである.調査方法は,倫理的配慮を行った上で全国の地域包括支援センター435 箇所に配属されている社会福祉士435 名を対象とし,自記式質問紙を作成し,郵送調査を行った.有効回答は120 名であった.家族システム内の機能や構造の変容に対して,社会福祉士が活用する効果的なソーシャルワーク実践スキルを明らかにするために,社会福祉士が介入した後の家族システム内特性の改善度を従属変数,社会福祉士が活用したソーシャルワーク実践スキルの活用頻度を独立変数とする重回帰分析を行った.その結果,家族システム内特性の改善の第1 因子である『高齢者と養護者の交流パターンの改善』因子には,『相互作用パターンの変容方法を家族成員に提示するスキル群』が有意な正の規定力を示した.家族システム内特性の改善の第2 因子である『家族の虐待に対する認知的評価や家族凝集性の改善』因子には,『相互作用パターンの変容方法を家族成員に提示するスキル群』が有意な正の規定力を示した.家族システム内特性の改善の第3 因子である『公的サービスの利用促進や援助職による援助に対する抵抗感の改善』因子には,『虐待する養護者に情緒的支援・情報提供するスキル群』と『相互作用パターンの変容方法を家族成員に提示するスキル群』が正の規定力を示した.これらの結果より,『相互作用パターンの変容方法を家族成員に提示するスキル群』は,『高齢者と養護者の交流パターンの改善』や『家族の虐待に対する認知的評価や家族凝集性の改善』や『公的サービスの利用促進や援助職による援助に対する抵抗感の改善』につながるソーシャルワーク実践スキルであることが明らかとなった.相互作用パターンの変容方法を家族成員に伝えることで,家族の虐待に対する認知的評価や家族凝集性が改善することから,家族システムズアプローチに基づいたファミリーソーシャルワークを実践することは効果的であるといえる.
著者
一瀬 貴子
出版者
関西福祉大学社会福祉学部研究会
雑誌
関西福祉大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:1883566X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.11-20, 2016-03

社会福祉援助職従事者はストレスフルな職場で就労しているといえる.特に,社会福祉士は,支援困難事例に対処する場合,バーンアウトしやすい状況におかれるのではないか.本稿の目的は,①サービス介入が必要であるにもかかわらず,サービス介入を拒否する事例を抱えた経験のある社会福祉士のバーンアウトの実態を明らかにすること,②社会福祉士がとる対処スタイルとバーンアウトとの関連を明らかにすることである. 平成27 年9 月14 日から10 月15 日までの間にA県に所在する202 か所の地域包括支援センターに配置されている404 名の社会福祉士を対象とし,自記式質問紙調査を郵送法にて送付した.有効回答数は51 名(12.6%)であった. 全体的な傾向としては,顕著なバーンアウトの兆候を示しているとは言えない結果となった.ただ,個人的達成感が「注意」の範囲に入ることが分かった. バーンアウトの規定要因を明らかとするため,重回帰分析を行った.その結果,「色々な方法を試して一番良い方法を探し出した」「何が問題かを分析した」という『問題解決型』対処スタイルをとることは,脱人格化を減少させ,個人的達成感を高める作用があると明らかとなった.ストレッサーに対して直接働きかけ,どうにかしようと努力することは,バーンアウトの低減につながっているといえる. 「ぼうっとしてとりとめのない物思いにふけった」「不満や愚痴を誰かに話した」「スポーツ・趣味・グループ活動に熱中して嫌なことを忘れた」という『コミュニケーションによる発散型』対処スタイルは,脱人格化および情緒的消耗感を高めることにつながっている. また,「なるべく関わらないようにした」「睡眠安定剤を常用した」「うちにこもった」という『ストレス抑制型』対処スタイルは,情緒的消耗感を高めることにつながっている. つまり,回避・情動的な対処スタイルをとることで,バーンアウトが高まるといえる.
著者
一瀬 貴子
出版者
関西福祉大学社会福祉学部研究会
雑誌
関西福祉大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:1883566X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.19-28, 2013-03

本稿における第一の目的は,地域包括支援センターに配置された社会福祉士の「高齢者虐待対応専門職としての専門職性自己評価」指標の構成要素を検討すること,第二の目的は,その専門職性がどの程度社会福祉士の職務の特徴を表していると認知しているのか(アイデアルイメージ)と,それらを実際に虐待発生事例の支援過程でどの程度意識して仕事にあたっているか(実践的意識)の差異を明らかにすることである.調査方法は,倫理的配慮を行った上で全国の地域包括支援センター1520 箇所に配属されている社会福祉士1520 名を対象とし,自記式質問紙を作成し,郵送調査を行った.有効回答は531 名であった.因子分析の結果,『1,被虐待高齢者や養護者や家族とのインテーク・アセスメント面接に関する技術因子(9項目)』,『2,高齢者虐待発生事例を支援する際の価値因子(8項目)』,『3. 高齢者虐待の発生時・通報時における対応方法に関する知識因子(7項目)』,『4,高齢者虐待対応専門職としてのオートノミー因子(3項目)』,『5,高齢者虐待発生事例に対する情報整理に関する技術因子(3項目)』,『6,高齢者虐待対応に関する技術向上のための自己研鑽因子(2項目)』が抽出された.また,アイデアルイメージと実践的意識との平均値についてt 検定で比較したところ,「高齢者虐待発生事例に対する情報整理に関する技術」を習得することや「スーパービジョンやコンサルテーションの機会を持つ」ことに関しては,アイデアルイメージと実践的意識との平均値の差異が大きいことが分かった.高齢者虐待対応現任者標準研修を受けることにより,「虐待対応ソーシャルワークモデル」に関する知識や技術を習得することが今後必要であると考える.