著者
中島 明子 山路 雄彦 大橋 賢人 七五三木 好晴 渡邊 秀臣
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C3O3051, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】 内側縦アーチは足底に加わる体重負荷を分散して支え,着地時の衝撃を吸収し,効率のよい歩行を遂行する上で重要である.内側縦アーチの支持機能の一つとして足底腱膜があげられ,足趾背屈や荷重などの動作に合わせて伸縮を繰り返している.足底腱膜の伸張ストレスはウインドラス機構やアキレス腱足底腱膜連動機構により増大すると報告されているものの,客観的に足底腱膜の形状変化を検証した報告は極めて少ない.そこで,本研究は動態の観察が可能である超音波画像診断装置を用いて,足底腱膜の解剖学的特徴を明らかにし,膝関節,足関節,第一中足趾節関節(以下,母趾)の肢位の違いによる足底腱膜の形状変化について検討することを目的とした.【方法】 対象は健常成人16名(男性8名,女性8名,年齢25.6±4.6歳,身長166.8±7.1cm,体重58.9±7.5kg)とし,測定肢は全例左側とした.計測には超音波画像診断装置(GE社製LOGIQ BookXP Series,Bモード,8MHz)を用い,超音波プローブを踵骨隆起と第一中足骨頭を結ぶ線に平行に当て,長軸方向にて足底腱膜内側部を抽出した.測定部位は踵骨より1cm末梢部(以下,踵骨部)とし,背臥位にて計測した.測定肢位の条件として,膝関節は屈曲位(股関節膝関節90度屈曲位)・伸展位(股関節中間位膝関節完全伸展位)の2肢位,足関節は45°底屈位・中間位・最大背屈位の3肢位,母趾は中間位・最大背屈位の2肢位を定め,3関節の肢位を組み合わせて,計12肢位にて足底腱膜の厚さを計測した.各肢位3回ずつ計測し,平均値を求めた.なお,基本肢位は股関節中間位,膝関節伸展位,足関節中間位,足趾中間位と定義した.また,各肢位は安楽姿勢とし,関節運動は全て他動運動にて行った.統計学的分析では,信頼性の検討に級内相関係数(以下,ICC)を用い,膝関節および母趾の肢位別の比較に対して対応のあるT検定を用いた.さらに,足関節の肢位別の比較に対して一元配置の分散分析後Tukeyの多重比較を用いた.なお,有意水準は5%未満とした.【説明と同意】 対象者全員に研究の趣旨及び方法を説明後,同意を得た上で計測を行った.【結果】 踵骨部の足底腱膜は表層で高エコー,深層で低エコーとして描出された.ICC(1,1)は0.902であり,基本肢位での足底腱膜の厚さは2.41±0.39mmであった.母趾背屈により足底腱膜の厚さは0.11±0.18mm薄くなり,いずれの測定肢位においても有意に薄くなった(p<0.05).一方,膝関節や足関節の肢位変化に伴う足底腱膜の厚さには有意な差は認められなかった.【考察】 足底腱膜は踵骨隆起に起始し,第1-5趾基節骨に停止する強靭な腱組織である.踵骨部の足底腱膜は組織学的に表層の線維配向性が張力方向であるのに対し,深層は網目状であることから,本研究において足底腱膜の表層は高エコーとして描出されたと考えられる.また,足底腱膜の境界線が鮮明に描出されたことで同肢位,同部位での計測で高い信頼性が認められたと考えられる.母趾背屈による足底腱膜の形状変化は,ウインドラス機構が働き,足底腱膜の停止部が遠位上方に巻き上げられ,長軸方向への伸張ストレスを有するために生じたと考えられる.一方,膝関節や足関節の角度と足底腱膜の厚さに関連がみられなかったことの理由としては,膝関節伸展,足関節背屈により下腿三頭筋が伸張され,距骨に対して踵骨が底屈方向に動くものの,足底腱膜の厚さが変動するまでの長軸方向の伸張ストレスはかからなかったと推察される.【理学療法学研究としての意義】 超音波画像診断装置を用いて足底腱膜を鮮明に描出することが可能であった.Javier Pascual Huertaらによると,足底腱膜の厚さは踵骨部にて2.70±0.69mmであったと報告しており,本研究の結果とほぼ一致する値であった.本研究にて高い信頼性を得られたことからも,超音波検査法は足底腱膜の評価ツールとして臨床的有用性が高いと判断できる.このため足底腱膜炎などの踵骨部の足底腱膜の厚さに異常をきたす疾患の評価に,超音波装置を用いて経時的な変化をみることが可能であると考えられる.また,足底腱膜の形状変化は主に母趾背屈により生じ,足関節や膝関節の評価肢位には影響されないことが示された.
著者
西野 竜也 高橋 悠 七五三木 好晴 内川 千恵
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに,目的】近年,人口の高齢化が進み大腿骨頚部骨折の受傷者が増加傾向にある。また,地域包括ケアシステムの導入により居宅を中心とした地域での生活が,早期から安全に長く行えることが必要になると考える。しかし,現在,大腿骨頚部骨折受傷者における退院時の身体機能やADLに関する報告は数多くされている一方で,退院後の活動量や生活状況に関しての報告は少ない。そこで,今回,自宅退院6ヶ月後での生活状況や生活習慣の調査を目的にアンケート調査を行った。【方法】対象者は,2012年1月~2013年3月の間に当院の回復期病棟を退院した大腿骨頚部骨折の患者60名の内,回答のあった自宅退院者30名(退院時の平均年齢:75.8±11.4歳,男性:11名,女性:19名)とした。方法は,退院6か月後の歩行様式,歩行自立度,外出頻度,家事や仕事の実施状況,日常の運動頻度などについてアンケートを実施した。歩行様式は「独歩・杖歩行・伝い歩き・歩行器・車いす」の5項目,歩行自立度は「自立・監視・介助」の3項目で調査を行った。外出頻度においては「ほぼ毎日・週2回以上・月に数回・めったに外出しない」の4項目,家事や仕事,運動頻度は「している・時々している・ほとんどしていない」の3項目で調査を行った。また,退院時の屋内外歩行自立度と移動手段をカルテ記録から情報収集を実施した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,前橋協立病院倫理委員会の承認を得,患者様にはその旨を十分に説明し,書面上において同意を得ている。【結果】自宅退院者の退院時の屋内歩行自立度は,自立が30名中26名(87%),監視が3名(10%),介助が1名(3%)であった。屋外歩行自立度は,自立が30名中18名(60%),監視が9名(30%),介助が3名(10%)であった。屋外移動手段は自立群では,杖歩行自立が18名中14名(78%)と最も多く,続いて,独歩自立が2名(11%),歩行器自立が2名(11%)となった。退院6カ月後における屋外歩行自立度の変更は,向上が22名中4名(18.1%),維持が18(81.9%)名となった。屋外歩行自立群において退院6カ月後の外出頻度は「ほぼ毎日」が22名中6名(27%),「週2回以上」が6名(22%),「ときどき」が7名(32%),「めったに外出しない」が3名(14%)であった。家事・仕事の状況では「している」が22名中7名(32%),「時々している」が12名(54%),「ほとんどしていない」が3名(14%)となった。運動状況は,「している」が22名中10名(46%),「時々している」が4名(18%),「ほとんどしていない」が8名(36%)であった。運動内容においては,屋外歩行自立群は散歩と通所リハビリが6件と最も多く,続いて自主トレーニングが3件,スポーツが1件の順であった。地域活動を行っている回答は得られなかった。また,家事・仕事が「時々している」「ほとんどしていない」,外出が「月に数回」「ほとんどしていない」の両方に適応する割合が40.9%であった。運動が「時々している」「ほとんどしていない」で外出が「月に数回」「ほとんどしない」に適応する割合が31.8%であった。【考察】大腿骨頚部骨折受傷者で,自宅へ退院された方の退院6ヶ月後の屋外歩行は7割以上が自立していた。しかし,屋外歩行自立群において,退院6ヶ月後での運動習慣と外出頻度がともに乏しい方の割合が半数以上,家事・仕事と外出頻度が共に乏しい方の割合が3人に1人以上となった。このことから,退院時に獲得した能力を,退院後生活において十分に生かし切れておらず,歩行自立群の方々の活動性の低下及び閉じこもり傾向が示唆された。運動習慣においては,散歩やデイサービス,自主トレーニングといった自己完結型の運動や受動的サービスのみの利用が多かった。一方,「地域の活動」や「スポーツ」といった,受動的サービスの外での,地域での役割や関わりを行っている人はほとんど見られなかった。このことから,在宅生活が広がり,社会との関わりにつながる運動習慣及びシステムの欠如が考えられる。そのため,退院後に外出,運動,家事や仕事などの居宅での生活へ移行していくためには,入院中のADL自立度のみでなく,居宅生活の広がりを考えたフォローアップが必要であると考えられる。【理学療法学研究としての意義】今後,2025年に向けた地域包括ケアシステムにより居宅での生活が中心となっていくと考えられる。本研究では,自宅退院6カ月後の患者様にアンケート調査を行い,退院後の運動習慣や生活状況の傾向を明らかにすることで,入院中でのリハビリテーション今後の課題や地域でのリハビリテーションのあり方を考えることの一助になると考える。