著者
大山 祐輝 山路 雄彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.I-68_1-I-68_1, 2019

<p>【はじめに,目的】側臥位からの起き上がり動作時の下側の上肢位置は,先行研究より肩関節を60°屈曲位に設定することが望ましいとされる.しかし,実際の臨床場面においては,ベッド幅の狭さや,側臥位となる際にベッド柵を用い上肢を引き込み,側臥位での肩関節屈曲位が,60°以下になっていることが多い.また,筋電図学的研究では,腹筋群を着目したものが多い.そこで,本研究では,異なる肩関節屈曲位での側臥位からの起き上がり動作における,肩甲骨周囲筋特性を明らかにすることを目的とした.</p><p>【方法】整形外科的疾患の既往がない,健常成人男性13名を対象とした.対象動作は右側臥位からon elbowまでの起き上がり動作とした.施行条件は,開始肢位より①肩関節屈曲0°(条件①),②肩関節屈曲60°(条件②)とした.条件①は,肘関節は90°屈曲位とした.施行時間は,1secに設定した.各条件を3施行ずつ実施した.筋活動は表面筋電計(日本光電社製:WEB-7000)を用いて測定した.導出筋は,右側の三角筋後部線維,僧帽筋中部線維,僧帽筋下部線維,左側の外腹斜筋の4筋とした.表面筋電図はサンプリング周波数1000HzでA/D変換した.動作時より得られた各対象筋における筋電図波形は,最大随意収縮(maximum voluntary contraction;以下,MVC)発揮時の積分値で除することによって筋活動量(以下,%MVC)を求めた.角度に関して,各条件での動作終了時の右肩関節外転角度を測定した.解析方法に関して,条件間の比較にて①動作開始後0.1sec,②筋収縮ピーク前後0.1sec,③動作終了後1secの各筋の%MVCを対応のあるt検定にて比較した.有意水準は5%とした.</p><p>【結果】動作開始後0.1secに関して,全ての筋の筋活動量に有意差を認めなかった.筋収縮ピーク前後0.1secに関して,僧帽筋下部線維のみ,条件①(43.2%)が条件②(24.4%)と比較して有意に筋活動量が大きかった.動作終了後1secに関して,全ての筋において,条件①は条件②と比較して有意に筋活動量が大きかった.動作終了時の右肩関節外転角度は,条件①(37.9°)は条件②(61.0°)と比較し有意に小さかった.</p><p>【考察】条件①の動作は条件②と比較し,筋収縮ピーク時に肩甲骨は上方回旋へ作用し,それを制御するために僧帽筋下部線維の活動が高まったと考えられる.また条件①は動作終了時の肩関節外転角度が小さく、すなわち支持基底面が条件②と比較し小さくなり,on elbow肢位保持により大きな筋活動を要することが考えられた.</p><p>【結論】上肢を引き込んだ状態での側臥位からの起き上がり動作は,肩甲骨の固定や肢位保持に大きな筋活動を必要とするため,上肢位置の調整や,体幹だけでなく肩甲骨周囲筋の筋力強化が必要であることが示唆された.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】本研究を行うに当たり,医療法人社団日高会日高病院の医療倫理委員会の承認を得た(承認番号:126).全ての対象者には,ヘルシンキ宣言に従い,本研究の目的,方法,利益,リスクなどの口頭および文書で説明し同意を得た.なお,同意は本人のサインをもって研究参加に同意したものと判断した.また,収集したデータは機密情報として扱い,研究者のコンピュータ内のみで解析され,研究者のみが知る登録番号で管理されることに加え,参加するかしないかは完全に本人の自由意志であることも加えた.</p>
著者
山路 雄彦 渡邉 純 浅川 康吉 臼田 滋 遠藤 文雄 坂本 雅昭 内山 靖
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.G0540, 2005

【目的】<BR>2002年度より理学療法における客観的臨床能力試験(Objective Structured Clinical Examination)(以下、理学療法版OSCE)を開発・実施し、その有用性を報告してきた。理学療法版OSCEは評価を中心としたものであるが、運動療法、物理療法、ADL指導など治療を含めた内容でのOSCEも必要である。本研究では、治療場面を含めた理学療法版advanced OSCEの基本的構築および学外評価者の試行の妥当性を検討することを目的とする。<BR>【方法】<BR>課題は大腿骨頸部骨折と左片麻痺を有する対象者の4課題とした。課題1は徒手筋力テストと筋力増強運動、課題2はトランスファーと物理療法、課題3は立位評価と平行棒内歩行練習、課題4はトランスファーと更衣動作(上衣)として、評価と治療を組み合わせて構成した。評価者は学内評価者(本専攻教員)8名と学外評価者(本学以外養成校の教員)3名、模擬患者は4名で実施した。学外評価者3名は、ステーション1、ステーション3、ステーション4に配置し、学内評価者と共に同一学生を評価した。対象は、総合臨床実習直前の本専攻4年生23名とし、平成15年7月24日に実施した。運営はマニュアルを用いて行った。なお、学外評価者とは事前の打ち合わせは行わず、当日にマニュアルを配布して簡単な説明を実施して試験に加わった。平均点、課題別一致率、同一ステーション・同一課題における一致率を算出し比較、検討を行った。<BR>【結果および考察】<BR>総合点の平均は、400点満点中300.7点であり、評価を中心とした前年度の313.7点と有意な差は認めなかった。課題別一致率は、課題1:66.6%、課題2:55.7%、課題3:60.9%、課題4:60.2%であった。同一ステーション・同一課題別一致率では3ステーション4課題で59.0%、52.0%、54.9%、55.6%であった。これは理学療法版advanced OSCEの難易度は従来のものと変わらないものの、評価者個人の治療感の相違から評価が一致しない可能性が高いことによるものと考えられる。今後、評価基準の見直しとともに個々の治療感の相違を緩衝することが必要であると考える。また、同一ステーション・同一課題別一致率では学外評価者の配置された3ステーション中2ステーションで、学内評価者、学外評価者に有意な差を認めなかった。このことは、理学療法版advanced OSCEにおいても準備を整えれば学外の複数の評価者でも学生を客観的に評価することができることを示唆していた。
著者
中島 明子 山路 雄彦 大橋 賢人 七五三木 好晴 渡邊 秀臣
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C3O3051, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】 内側縦アーチは足底に加わる体重負荷を分散して支え,着地時の衝撃を吸収し,効率のよい歩行を遂行する上で重要である.内側縦アーチの支持機能の一つとして足底腱膜があげられ,足趾背屈や荷重などの動作に合わせて伸縮を繰り返している.足底腱膜の伸張ストレスはウインドラス機構やアキレス腱足底腱膜連動機構により増大すると報告されているものの,客観的に足底腱膜の形状変化を検証した報告は極めて少ない.そこで,本研究は動態の観察が可能である超音波画像診断装置を用いて,足底腱膜の解剖学的特徴を明らかにし,膝関節,足関節,第一中足趾節関節(以下,母趾)の肢位の違いによる足底腱膜の形状変化について検討することを目的とした.【方法】 対象は健常成人16名(男性8名,女性8名,年齢25.6±4.6歳,身長166.8±7.1cm,体重58.9±7.5kg)とし,測定肢は全例左側とした.計測には超音波画像診断装置(GE社製LOGIQ BookXP Series,Bモード,8MHz)を用い,超音波プローブを踵骨隆起と第一中足骨頭を結ぶ線に平行に当て,長軸方向にて足底腱膜内側部を抽出した.測定部位は踵骨より1cm末梢部(以下,踵骨部)とし,背臥位にて計測した.測定肢位の条件として,膝関節は屈曲位(股関節膝関節90度屈曲位)・伸展位(股関節中間位膝関節完全伸展位)の2肢位,足関節は45°底屈位・中間位・最大背屈位の3肢位,母趾は中間位・最大背屈位の2肢位を定め,3関節の肢位を組み合わせて,計12肢位にて足底腱膜の厚さを計測した.各肢位3回ずつ計測し,平均値を求めた.なお,基本肢位は股関節中間位,膝関節伸展位,足関節中間位,足趾中間位と定義した.また,各肢位は安楽姿勢とし,関節運動は全て他動運動にて行った.統計学的分析では,信頼性の検討に級内相関係数(以下,ICC)を用い,膝関節および母趾の肢位別の比較に対して対応のあるT検定を用いた.さらに,足関節の肢位別の比較に対して一元配置の分散分析後Tukeyの多重比較を用いた.なお,有意水準は5%未満とした.【説明と同意】 対象者全員に研究の趣旨及び方法を説明後,同意を得た上で計測を行った.【結果】 踵骨部の足底腱膜は表層で高エコー,深層で低エコーとして描出された.ICC(1,1)は0.902であり,基本肢位での足底腱膜の厚さは2.41±0.39mmであった.母趾背屈により足底腱膜の厚さは0.11±0.18mm薄くなり,いずれの測定肢位においても有意に薄くなった(p<0.05).一方,膝関節や足関節の肢位変化に伴う足底腱膜の厚さには有意な差は認められなかった.【考察】 足底腱膜は踵骨隆起に起始し,第1-5趾基節骨に停止する強靭な腱組織である.踵骨部の足底腱膜は組織学的に表層の線維配向性が張力方向であるのに対し,深層は網目状であることから,本研究において足底腱膜の表層は高エコーとして描出されたと考えられる.また,足底腱膜の境界線が鮮明に描出されたことで同肢位,同部位での計測で高い信頼性が認められたと考えられる.母趾背屈による足底腱膜の形状変化は,ウインドラス機構が働き,足底腱膜の停止部が遠位上方に巻き上げられ,長軸方向への伸張ストレスを有するために生じたと考えられる.一方,膝関節や足関節の角度と足底腱膜の厚さに関連がみられなかったことの理由としては,膝関節伸展,足関節背屈により下腿三頭筋が伸張され,距骨に対して踵骨が底屈方向に動くものの,足底腱膜の厚さが変動するまでの長軸方向の伸張ストレスはかからなかったと推察される.【理学療法学研究としての意義】 超音波画像診断装置を用いて足底腱膜を鮮明に描出することが可能であった.Javier Pascual Huertaらによると,足底腱膜の厚さは踵骨部にて2.70±0.69mmであったと報告しており,本研究の結果とほぼ一致する値であった.本研究にて高い信頼性を得られたことからも,超音波検査法は足底腱膜の評価ツールとして臨床的有用性が高いと判断できる.このため足底腱膜炎などの踵骨部の足底腱膜の厚さに異常をきたす疾患の評価に,超音波装置を用いて経時的な変化をみることが可能であると考えられる.また,足底腱膜の形状変化は主に母趾背屈により生じ,足関節や膝関節の評価肢位には影響されないことが示された.
著者
高橋 和宏 山路 雄彦 白倉 賢二
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Cb0507, 2012

【はじめに、目的】 インピンジメント症候群の原因は様々であるが,インピンジメント症候群者を対象とした上肢挙上の研究では肩関節回旋筋腱板や肩甲胸郭関節での前鋸筋,僧帽筋の筋機能低下,肩甲骨運動異常などが報告されている.また,インピンジメント症候群のリスクとして,挙上速度の速い上肢挙上があげられている.臨床ではそれらに加え,体幹の機能低下を認めることも多い.腹部筋群の筋活動は,背臥位に比べ立位にて増大し,特に内腹斜筋や腹横筋で増大すると報告されている.上肢挙上に関する体幹機能としては,feedforwardに関する研究は多く報告されている一方,上肢挙上運動中に伴う腹部筋群の筋活動についての報告はあまりみられない.本研究では健常者を対象に,異なる挙上速度において上肢挙上中の腹部筋群の筋活動を調査し,安静立位時の腹部筋群の筋活動と比較検討することを目的としている.【方法】 神経学的および整形外科的に既往のない健常男性20名(平均年齢26.4±3.5歳)を対象とした.矢状面上での右上肢挙上を課題とし,測定には筋電図(WEB-5000)と三次元動作解析装置(VICON612)を用いて,サンプリング周波数1080Hzと60Hzとで同期させた.対象筋は,両側の外腹斜筋(EO),内腹斜筋(IO),腹直筋(RA)とした.赤外線反射マーカーは右肩峰,右肘頭に貼付した.挙上速度は,fast(最大速度),natural(至適速度),slow(6秒間かけての上肢挙上)の3段階とした.各挙上速度ともに3回ずつ測定を行った.筋電図の分析には安静時(rest)および各挙上速度での上肢挙上開始から挙上150°までの平均RMSを用い,各筋の最大等尺性収縮時のRMSを100%として正規化し,%RMSを求めた.統計学的検定にはDunnettの方法を用いて,restを対照群として,fast,natural,slowの各群との比較を行った.有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は群馬大学医学倫理委員会で承認を得て実施した.研究実施の際は,本研究の趣旨を書面にて対象者に説明し,同意書に署名を得たうえで行った.【結果】 右EOはrest7.4±5.3%,fast18.1±7.9%,左EOはrest7.4±4.8%,fast23.6±18.9%,右IOはrest10.2±5.0%,fast32.7±26.5%,左IOは11.0±6.6%,fast25.1±20.1%,右RAはrest6.2±3.5%,fast12.9±8.8%,左RAはrest6.8±4.5%,fast13.3±9.4%であった.両側EO,右IOにて,fastではrestに対し有意な差が認められた.一方,natural,slowではrestに対し有意な差は認められなかった.【考察】 Hodgesらは挙上速度の速い上肢挙上では,上肢運動による反力や姿勢変化による重心移動をコントロールするために,feedforwardとして体幹筋群が先行して働くことを報告している.今回,fastにおいて腹部筋群の筋活動が安静時に比べ有意に高くなっていた理由としては,上肢挙上中も身体への反力や重心移動が大きく生じ,それをコントロールするために,肩関節周囲筋群のみでなく腹部筋群の筋活動も必要となったと考えられる.一方,natural,slowでは腹部筋群の筋活動は安静時比べ差がないため,肩関節周囲筋群の筋活動がより重要であると考えられた.今回の結果より,速度の速い上肢挙上では,腹部筋群の筋活動が必要であることが示唆された.【理学療法学研究としての意義】 スポーツ動作など最大速度を必要とする際には,腹部筋群を含めたアプローチが重要となってくると考えられる.一方,至適速度での上肢挙上では,安静時と比べ腹部筋群の筋活動が変化しないため,肩関節や肩甲胸郭関節の局所的なアプローチが重要となると考えられる.
著者
桑原 拓也 饗場 和美 豊岡 浩介 山路 雄彦 渡辺 秀臣
出版者
北関東医学会
雑誌
北関東医学 (ISSN:13432826)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.159-166, 2008-05-01 (Released:2008-06-13)
参考文献数
18
被引用文献数
1

【背景・目的】 他動的なスタティック・ストレッチングは運動器の維持・向上に大きな役割を果たしている. 伸張時間と頻度において有効な活用法の確立と温熱療法の相加的効果について検討した. 【対象と方法】 健常大学生22名を対象とし, ストレッチング10秒間を5回施行する群と50秒間を1回施行する群に分け, これに温熱療法を併用しストレッチング前と直後, 10分後の3回, 下肢伸展挙上 (straight-leg raising, SLR) 角度と手掌にかかった圧を測定し伸張強度を求めた. 【結 果】 10× 5群ではスタティック・ストレッチングによりSLR有意な角度の改善が認められたが, 50×1群では有意な改善が得られなかった. 温熱の相加的効果は確認されなかった. 10× 5群ではスタティック・ストレッチングにより有意な伸張強度の増加が確認された. SLR角度と伸張強度の変化率には10× 5群のみ有意な相関が確認された. 【結 語】 ストレッチングによるSLR角度の増加は10秒を5回繰り返す方法が有効であり, この短期の改善効果は神経生理学的要因が関与し, 長期持続には組織構造の変化を導くストレッチングの継続が必要と考えられる.
著者
芹澤 志保 中澤 理恵 白倉 賢二 大沢 敏久 高岸 憲二 山路 雄彦 坂本 雅昭
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.483, 2003

【目的】我々は、群馬県高校野球連盟(県高野連)からの依頼により第84回全国高校野球選手権群馬県大会においてメディカルサポートを行った。以前より高校野球全国大会ではメディカルサポートによる傷害予防がなされているが、本県では今回が初の取り組みとなった。本研究の目的は、メディカルサポートの内容を紹介すると共に今後の課題を検討することである。【対象及び方法】対象は、第84回高校野球選手権群馬県大会4回戦(ベスト16)以降に出場した延べ32チームとした。メディカルサポートを行うため、群馬県スポーツリハビリテーション研究会を通じ、本県内の理学療法士にボランティア参加を募った。県高野連から依頼のあったメディカルサポートの内容は、投手及び野手別のクーリングダウン(ストレッチング)指導であり、これら指導内容を統一するため事前に3回の講習会を行った。また、高校野球における投手では連投となることが多いため、投球イニング、肩および肘関節の痛みの有無、疲労感等に関するチェック表を作成した。準決勝・決勝戦を除き試合会場は2球場であり、各球場に理学療法士は投手担当2名、野手担当4名以上、医師は1名以上が常駐するよう配置した。【結果及び考察】メディカルサポート参加者は、理学療法士延べ64名(実数40名)、医師9名(実数5名)であった。その内訳は、投手担当が延べ19名、野手担当が延べ46名であった。メディカルサポート内容は、クーリングダウン、試合前および試合中のアクシデントに対するテーピング、熱中症対策であった。準々決勝の1チームと決勝の1チームを除く30チームに対してクーリングダウンを行った。投手は延べ37名であった。投手の肩および肘の痛みについては、肩外転位での外旋で痛みを訴えたもの0名(0%)、水平内転で痛みを訴えたもの1名(2.7%)、肘に痛みを訴えたもの11名(29.7%)であり、肘痛が最も多かった。また、テーピングは延べ13名(実数6名)に実施し、その全員が野手であった。さらに、熱中症に対する応急処置として理学療法士・医師が相当数救護にあたり、過呼吸に対する応急処置の依頼もあった。これらクーリングダウン以外のサポートは、当初県高校野球連盟より依頼されていなかったものであるが、現場では外傷・熱中症などの応急処置は必要不可欠であったためすべてに対応した。今後の課題として、メディカルサポートの内容について県高野連と調整すると共にテーピングを含めた応急処置に関する技術の確認などの必要性が示唆された。
著者
猪股 伸晃 坂本 雅昭 山路 雄彦 中澤 理恵 宮澤 一 金城 拓人 中川 和昌 富澤 渉
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.C0313-C0313, 2006

【はじめに】<BR>我々は,群馬県高校野球連盟(以下:県高野連)からの依頼により,平成14年度の第84回全国高校野球選手権群馬県大会(以下:大会)からメディカルサポート(以下:サポート)を開始し4大会を経験した.本研究の目的は,平成17年度に開催された第87回大会サポート結果を整理し,現サポート体制についての課題を明らかにすることである.<BR>【対象及び方法】<BR> 対象は第87回大会の3回戦以降に進出したチームであった.サポートを行うため,群馬県スポーツリハビリテーション研究会を通じ,本県内の理学療法士(以下:PT)にボランティア参加を募った.サポートの内容は,3回戦以降の試合前および試合中のアクシデントに対するテーピング・応急処置,4回戦以降の投手及び野手別のクーリングダウン(軽運動・ストレッチング)であった.投手の連投を考慮し,投球数,肩および肘関節の痛みの有無,疲労感等に関するチェック表を使用し状態を把握した.対応方法については内容を統一するため,事前に講習会を行ったが,加えて新規参加者に対してはアスレティックリハビリテーションの基礎に関する講習会への参加を促した.準決勝・決勝戦を除き試合会場は2球場であり,各球場に投手担当2名,野手担当4名以上が常駐するようにスタッフを配置した.また,大会終了後にPTスタッフによる反省会を実施し,現サポート体制の問題点について議論した.<BR>【結果及び考察】<BR>クーリングダウンは投手に対しては延べ29校41名に,野手に対しては延べ28校に実施した.投手の中では下肢の柔軟性が低下している選手が多く認められ,日頃のトレーニングあるいは大会中のストレッチングを含めたコンディショニングの重要性が示唆された.また,肩痛や肘痛は各々10%程度に認められた.応急処置対応は延べ54件(32名;選手14名,審判1名,観戦者17名)であり,デッドボール等による打撲への対応の他に,応援席観戦者の熱中症に対するクーリングや安静指導が多かった(14件).サポートに参加したスタッフは延べ74名(実数57名)であり,投手担当は15名,野手担当は41名であった.前年度までのサポート経験者が32名,新規参加者が25名であった.反省会ではPTの質的な部分,すなわち技術だけでなく現場での態度やサポート活動に対する姿勢に関して,スタッフ間に差があることについての問題提起がなされ,単に知識・技術レベルを向上するだけでなく,意識の均一化も重要であることがわかった.また,来年度からは1回戦からのサポートが決定されており,より効率的な新規参加者の育成システムの確立が必要と考えられた.<BR><BR>
著者
坂本 雅昭 中澤 理恵 竹沢 豊 山路 雄彦
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.C0321-C0321, 2005

【目的】<BR>我々は,群馬県高等学校体育連盟(高体連)サッカー専門部との協議の上,応急処置および傷害予防を目的とし,平成16年度の群馬県高校総合体育大会(県総体),インターハイ予選(インハイ予選),選手権予選においてメディカルサポートを実施した。本県では,以前より高校野球でメディカルサポートが行われていたが、サッカー競技では今回が初の取り組みとなった。本研究の目的は,群馬県高体盟サッカー競技におけるメディカルサポートの内容を整理し,次年度へ向けての課題を明らかにすることである。<BR>【対象及び方法】<BR>対象は,県総体に出場した56校55試合,インハイ予選に出場した58校57試合,選手権予選に出場した57校72試合とした。メディカルサポートを行うため,群馬県スポーツリハビリテーション研究会を通じ,本県内の理学療法士にボランティア参加を募った。メディカルサポートの内容は,試合前の傷害予防のためのテーピング等のケア,試合中(原則として選手交代後)及び試合後の外傷に対する応急処置・ケアの指導であった。また,次試合への申し送りのため,傷害名,受傷機転,対応に関する申し送り表を作成した。各試合会場には,理学療法士が2名以上常駐するように配置した。<BR>【結果及び考察】<BR>メディカルサポートに参加した理学療法士は県総体延べ38名,インハイ予選延べ42名,選手権予選延べ70名であった。メディカルサポートで対応した選手数は延べ393名(県総体112名,インハイ予選128名,選手権予選153名),対応件数は518件(県総体137件,インハイ予選181件,選手権予選200件)であった。試合前の対応は266件であり,試合中・試合後の対応は262件であった。試合前の主な対応内容はテーピングであり,試合中・試合後の主な対応内容はテーピング,アイシング,ストレッチング,止血処置であった。テーピングは356件,アイシングは156件,ストレッチングは56件,止血処置は5件であり,テーピングが最も多い対応内容であった。テーピングの部位別内訳は,肩関節9件,肘関節2件,前腕6件,手関節7件,手指18件,体幹27件,股関節4件,大腿50件,膝関節48件,下腿29件,足関節147件,足趾9件であり,下肢に対するテーピングが全体の80%を占め,足関節が最も多かった。サッカー選手の傷害に関する過去の報告では,若年者の年代ほど足関節捻挫が多いと報告されており,同様の結果となった。今後の課題として,テーピングを含めた応急処置に関する技術の向上を図る必要性が示唆された。
著者
高橋 温子 山路 雄彦 渡邊 秀臣
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.C4P1166, 2010

【目的】<BR> 義足には感覚が存在しないことから,切断者は断端部およびそれより近位からの体性感覚情報を活用していると考えられる.大腿切断者のADLにとって,断端の体性感覚情報は重要な役割を果たしていると考えられるが、断端に感覚検査を行っている報告は少ない.そこで大腿切断者の断端部の体性感覚情報と義足制御の関係を明らかにするために,感覚検査と感覚刺激に対する反応時間を調べ,その関係について検討することとした.<BR><BR>【方法】<BR> 対象は切断から2年以上経過し,神経疾患の既往の無い男性大腿切断者11名(年齢30.2±17.6歳,身長170.8±4.9cm,体重62.6±8.6kg,断端長11.1±3.4cm)と,健常男子大学生15名(年齢21.7±2.6歳,身長169.9±6.3cm,体重62.1±7.8kg)とした.感覚検査は振動覚,二点識別覚,関節位置覚とし,臥位で行った.振動覚は上前腸骨棘,坐骨結節に音叉を当て,振動感知時間を各3回測定し,検者との比率(%)を算出し平均値を求めた.二点識別覚は,坐骨結節,坐骨結節から6cm末梢の大腿後面(以下,大腿後面),坐骨結節から6cm末梢の大腿前面(以下,大腿前面)の3ヶ所で,二点を識別できる距離を各1回測定した.関節位置覚は,股関節屈曲角度を30度と60度に設定し,模倣試験を各角度で3回行い,設定角度からのずれ(以下,誤認角度)を測定し,平均値を求めた.感覚刺激の入力から筋収縮までの潜時(以下,反応時間)の計測には,筋電計(日本光電工業株式会社製WEB-9500)を用い,大腿直筋,内側ハムストリングス,外側ハムストリングス,大殿筋の4ヶ所に電極を装着した.また筋電図上に波形が出現するようにした感覚刺激スイッチ(OMRON社製)で,坐骨結節,大腿後面,大腿前面の3ヶ所に一定の強さで触れた後,坐骨結節,大腿後面への刺激では股関節伸展,大腿前面への刺激では股関節屈曲を各3回行わせ,波形の立ち上がりを最大振幅の20%とし平均値を求めた.測定時は耳栓を装着し,閉眼にて外部からの刺激を極力無くした.統計学的分析では,切断者の健側と患側の感覚検査,反応時間の比較にWilcoxonの符号付き順位検定を用い,健常者の左右の感覚検査,反応時間の比較には対応のあるt検定を用いた.なお有意水準はともに5%未満とした.<BR><BR>【説明と同意】<BR> 対象者全員に研究の趣旨および方法を説明後,同意を書面にて得た上で,検査,計測を行った.<BR><BR>【結果】<BR> 感覚検査では,すべての測定項目において健常者では有意な左右差は認められなかった.切断者では,坐骨結節の振動感知時間は,健側59.5±10.5%,患側67.6±17.0%であり,患側の坐骨結節の振動覚閾値が有意に低いことが認められた(p<0.05).大腿後面の二点識別覚では,健側2.0±0.9 cm,患側1.3cm±0.6cmと,患側大腿後面の二点識別覚閾値が有意に低いことが認められた(p<0.05).振動覚,二点識別覚のその他の部位,関節位置覚の誤認角度では,健側,患側間に有意な差は認められなかった.感覚刺激に対する反応時間では,すべての測定項目において健常者で有意な左右差は認められなかった.切断者では,大腿後面に感覚刺激を与え股関節伸展した際の大殿筋の反応時間が,健側0.22±1.1 sec,患側0.16±0.06 secと,患側大殿筋の反応時間が有意に速いことが認められた(p<0.05).その他の運動方向,筋では有意な差は認められなかった.<BR><BR>【考察】<BR> 深部感覚はソケットを介した義足の位置の認知,義足のコントロールに欠くことはできず,また,表在感覚はソケット装着時の皮膚表面の痛みや圧迫の度合いを知ることに必要であり,そのため深部感覚,表在感覚は義足の制御において重要な役割を果たしていると考えられる.今回,切断者の坐骨結節での振動覚閾値,大腿後面の二点識別覚閾値が患側で有意に低く,さらに大殿筋の反応時間が患側で有意に速かった.このことは大腿切断者では,立脚相の制御において,坐骨結節で義足に対する荷重量を感知し,大腿後面で膝折れに関する情報を検出するとともに,さらに速い大殿筋の働きにより膝折れを防止することを示唆していると考えられる.<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 大腿切断者は,立脚初期において坐骨結節への荷重量,大腿後面のソケット内圧の変化を感知するとともに,大殿筋の速い収縮によって,膝折れを制御していることが示唆された.そのため,切断術後の理学療法において,断端への感覚入力を促すなど,感覚へアプローチすることでより安定した義足歩行の獲得が可能であると考えられる.