著者
三和 裕美子
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 第86集 株式会社の本質を問う-21世紀の企業像 (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
pp.86-95, 2016 (Released:2017-03-23)

現代資本主義においては,経済活動を通して生み出された富は,生産手段に投下されるよりも,金融市場に向かい,国債,株式,デリバティブ市場の急速な取引技術の革新によって,さらに取引残高が増加する。この結果,大規模な資金を運用する年金基金,投資信託などの機関投資家,富裕層の資産運用を主に行うヘッジファンドなどの行動が金融市場や企業に及ぼす影響が大きくなり,「もの言う株主」などとして注目を集めるようになった。また,今日企業を支配するファンドも出現し,取引先に対する関係保持や新規市場開拓,技術革新,労使関係等に無関心,あるいはそれらを軽視し,ときには法令遵守にも留意しないという最低限のコーポレート・ガバナンスさえ機能しない状況を生み出している。現代社会におけるファンドの影響力は投資先企業にとどまらず,企業支配や国家にまで及んでいる。本稿では,経済の金融化との関連でファンドの企業支配の実態と問題点を明らかにし,現代株式会社への影響を考える。