著者
松下 貴惠 岩島 佑希 馬場 陽久 稲本 香織 三浦 和仁 岡田 和隆 渡邊 裕 山崎 裕
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.209-217, 2020-12-31 (Released:2021-01-28)
参考文献数
31

目的:味覚障害の多くを占めている高齢者における味覚障害の特徴を明らかにすること。 方法:2013年8月~2019年12月の6年5カ月間に味覚異常を主訴に当科を受診した101例を,65歳以上の高齢者群74例と,65歳未満の非高齢者群27例の2群に分けた。これらに対し,男女別の年齢分布,病悩期間,発症の契機,味覚の自覚症状,味覚異常以外の口腔内随伴症状,薬剤服用歴,内科的疾患,味覚障害の原因,初診時の味覚検査と血液検査,治療法,予後に関して比較検討した。 結果:高齢者群は非高齢者群に比べ,病悩期間が有意に長く(19.3±28.1月 vs. 8.9±16.8月),発症の契機率は有意に短く(46% vs. 74%),薬剤服用歴と内科的疾患の有病率はともに有意に高い結果であった(91% vs. 70%,93% vs. 59%)。味覚異常の原因では,両群ともおおむね同様の傾向を示したが,高齢者群は非高齢者群に比べ心因性が少なく,口腔疾患と亜鉛欠乏性の割合が多くなっていた。高齢者群の口腔疾患は,口腔カンジダ症が多く高齢者群全体の約2割を占め,臨床所見のみではカンジダ症が疑われない症例が約4割に認められた。高齢者群の改善率は非高齢者群と同様で約75%と良好であったが,治療期間は長い傾向にあった。両群ともに病悩期間の長いほうが改善率は低く,治療期間も長くなる傾向があった。 結論:高齢者における味覚障害では,口腔カンジダ症が多く認められるため,初診時のカンジダ検査の重要性が示唆された。また病悩期間が治療効果や治療期間と関係するため,早期発見と早期の適切な治療が必要であると思われた。
著者
武田 雅彩 三浦 和仁 新井 絵理 松下 貴恵 山崎 裕
出版者
北海道歯学会
雑誌
北海道歯学雑誌 (ISSN:09147063)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.122-126, 2020-04

苦味の自発性異常味覚を訴える症例に対し,漢方薬の五苓散を投与したところさまざまな効能が得られた症例を経験したので報告する. 70 代の女性.初診の1か月前,突然,安静時に右舌縁の苦味を自覚し,その後も症状に改善傾向なくかかりつけの歯科からの紹介にて当科受診した.下肢のむくみ,頬粘膜の咬傷痕が認められ,血清亜鉛値は61 μg/dl と軽度低値ではあったが他の各種検査では異常を認めなかった.味覚障害の原因として亜鉛欠乏性が疑われたが,まずベンゾジアゼピン系の抗不安薬であるロフラゼプ酸エチルの投与を開始した.すぐに苦味は軽快傾向を示したが,3週頃から改善が認められなくなった.そこで水滞の所見を参考に五苓散5 g/ 日を投与すると苦味が軽快した他に下肢のむくみや頬粘膜の咬傷がなくなった。結果的に亜鉛の補充は行わずに味覚異常は完治した