著者
佐藤 伊久男 柳沢 伸一 斎藤 寛海 斎藤 泰 三浦 弘万 渡部 治雄 鶴島 博和
出版者
東北大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1988

この2年間我々は、《特殊ヨ-ロッパ的》社会構造に着目しつつ前近代の統合的諸権力の構造と展開を把握することに努めてきたが、その際独断に陥らないよう研究史をフォロウし、その研究史を対象化するために史料に沈潜し、また研究成果の相互批判に努めてきた。これらの目的は、本研究費補助金により著しく促進された。さて我々の研究は、第1領域《地域的諸集団と統合的諸権力》、第2領域《統合的諸権力における教会の地位》、第3領域《統合的諸権力と官僚》を単位に進められ、その結果は、未発表の独立した諸論文(もしくはその要約)からなる『研究成果報告書』としてまとめられた。その中で、佐藤伊久男が中世イングランドの国家と教会との関係において12世紀が大転換期であることを解明したのに続き、第1領域で、三浦弘万氏はカ-ル大帝による他部族併合過程におけるグラ-フシャフト制の導入の意義を強調し、斎藤泰氏は原スイス永久同盟の形成過程における渓谷指導層の利害の決定性を示し、柳沢伸一氏は宗教改革期の帝国都市とスイス都市との同盟に帝国の統治構造の特殊性を見、斎藤寛海氏は16世紀ヴェネチアの食糧政策の中から特殊イタリア的な支配構造の特質を摘出した。第2領域では、渡部治雄氏は帝国教会制との絡みでドイツ王国成立を国王ジッペからディナスティ-への構造的転換として把握し、鶴島博和氏はイングランド統一国家の原理が部族国家統合のへゲモニ-ではなく教会に由来すると主張した。第3領域では、小野善彦氏は領邦国家において君主の公的経営と学識法曹の私的経営とが役得プフリュンデとしての地方行政官職の形で癒着していたとし、神宝秀夫氏は絶対主義時代の領邦軍制(職業的常備軍と選抜民兵制)に見られる君主と内外の権力者との二元主義が特殊ヨ-ロッパ的特質の1つであると指摘した。今後は国家史を「官僚と軍隊」の観点から追究していく計画である。