著者
瀬戸 順次 和田 崇之 村瀬 良朗 三瓶 美香 下村 佳子 細谷 真紀子 水田 克巳 御手洗 聡 阿彦 忠之
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
pp.e22021, (Released:2023-01-06)
参考文献数
34
被引用文献数
1

背景:本邦では結核菌ゲノム解析と実地疫学を組み合わせた積極的結核疫学調査の有用性評価は行われていない.方法:2009~2020年の山形県における反復配列多型(VNTR)分析に基づいた網羅的な結核分子疫学調査結果により見出されたクラスターのうち,2020年の結核患者8人を含む8クラスター(19人)を対象に結核菌ゲノム比較を実施し,保健所の実地疫学調査結果と併せて評価した.結果:結核菌ゲノム比較の結果,近縁株(一塩基多型5カ所以内,もしくは6~12カ所かつ患者間に疫学的関連性を確認)は19株中9株(47.4%)に留まり,半数の4クラスターにのみ近縁株が含まれた.また,近縁株患者9人中6人(66.7%)で患者間の疫学的関連性が見出されていた一方,分離された菌が患者間の最近の結核感染伝播を示唆しない非近縁株(一塩基多型13カ所以上)であった10人は,全例が疫学的関連性不明であった(p<0.01).結論:高精細な識別能を有する結核菌ゲノム解析は,VNTR分析によりクラスターを形成した菌株から,患者間の疫学的関連性を強く示唆する近縁株を選別することができた.その特長は,保健所の感染伝播経路調査に要する人的・時間的資源を必要な結核患者に集中させることを可能とし,効率的かつ高精度の積極的結核疫学調査に貢献するものと考えられた.