著者
瀬戸 順次 阿彦 忠之
出版者
一般社団法人 日本結核・非結核性抗酸菌症学会
雑誌
結核 (ISSN:00229776)
巻号頁・発行日
vol.89, no.4, pp.503-508, 2014 (Released:2016-09-16)
参考文献数
9

〔目的〕接触者健診における高齢者に対するQFT-3G検査の有用性を検討すること。〔方法〕2010年9月~2013年5月,山形県での結核患者の濃厚接触者等2,420人に対して実施したQFT-3G検査成績を分析し,QFT-3G陽性者のLTBI届出の有無および結核発病状況を調査した。〔結果〕QFT-3G陽性率は7.3%(95% CI 6.2-8.3%)であり,年齢階級の上昇とともに陽性率が高くなる傾向が確認された(P<0.001)。〔考察〕QFT-3G陽性率は高齢者(60歳以上)で高い傾向を認めたものの,結核推定既感染率に対して大きく下回っており,過去の古い結核感染歴があっても必ずしもQFT-3G陽性にはならないと考えられた。さらに,QFT-3G陽性者の分析から,60歳代の2分の1,70歳代の3分の1,80歳以上の4分の1程度は最近の結核感染と推定された。結論として,高齢者のQFT-3G検査結果の解釈は結核患者との接触状況等を踏まえ慎重に行う必要があるものの,結核患者との濃厚接触歴のある高齢者に対してQFT-3G検査を実施することは,潜在性結核感染症のスクリーニングとしては意義があると考えられた。
著者
瀬戸 順次 和田 崇之 村瀬 良朗 三瓶 美香 下村 佳子 細谷 真紀子 水田 克巳 御手洗 聡 阿彦 忠之
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
pp.e22021, (Released:2023-01-06)
参考文献数
34
被引用文献数
1

背景:本邦では結核菌ゲノム解析と実地疫学を組み合わせた積極的結核疫学調査の有用性評価は行われていない.方法:2009~2020年の山形県における反復配列多型(VNTR)分析に基づいた網羅的な結核分子疫学調査結果により見出されたクラスターのうち,2020年の結核患者8人を含む8クラスター(19人)を対象に結核菌ゲノム比較を実施し,保健所の実地疫学調査結果と併せて評価した.結果:結核菌ゲノム比較の結果,近縁株(一塩基多型5カ所以内,もしくは6~12カ所かつ患者間に疫学的関連性を確認)は19株中9株(47.4%)に留まり,半数の4クラスターにのみ近縁株が含まれた.また,近縁株患者9人中6人(66.7%)で患者間の疫学的関連性が見出されていた一方,分離された菌が患者間の最近の結核感染伝播を示唆しない非近縁株(一塩基多型13カ所以上)であった10人は,全例が疫学的関連性不明であった(p<0.01).結論:高精細な識別能を有する結核菌ゲノム解析は,VNTR分析によりクラスターを形成した菌株から,患者間の疫学的関連性を強く示唆する近縁株を選別することができた.その特長は,保健所の感染伝播経路調査に要する人的・時間的資源を必要な結核患者に集中させることを可能とし,効率的かつ高精度の積極的結核疫学調査に貢献するものと考えられた.
著者
瀬戸 順次 鈴木 恵美子 山田 敬子 石川 仁 加藤 裕一 加藤 丈夫 山下 英俊 阿彦 忠之 水田 克巳 中谷 友樹
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
pp.22-072, (Released:2022-11-08)
参考文献数
15

目的 感染症の流行状況を的確に示すためには,時・場所・人の3つの情報の要約が求められる。本報告では,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が山形県において「いつ・どこで・どのように」広がっているのかを可視化したCOVID-19時空間三次元マップ(時空間マップ)を用いて実施した公衆衛生活動の概要を紹介することを目的とした。方法 山形県および山形市(中核市)のプレスリリース情報を基に感染者の疫学情報をリスト化し,無料統計ソフトを用いて時空間マップ(自由に回転,拡大・縮小が可能な3次元グラフィクスを含むhtmlファイル)を作成した。時空間マップの底面には,山形県地図を配置した。各感染者は,XY平面の居住地市町村(代表点から規定範囲でランダムに配置)とZ軸の発病日(推定を含む)の交点にプロットした。また,色分けにより,感染者の年齢群,感染経路を示した。さらに,県外との疫学的関連性を有する感染者には,都道府県名等を挿入した。完成した時空間マップは,山形県衛生研究所ホームページ上で公開し,随時更新した。活動内容 2020年8月に時空間マップの公開を開始し,以降,山形県で経験した第六波までの流行状況を公開した。その中で確認された,第一波(2020年3~5月)から第五波(2021年7~9月)までに共通していた流行の特徴をまとめ,ホームページ上に掲載した。あわせて,その特徴を踏まえた感染対策(山形県外での流行と人の流れの増加の把握,飲食店クラスターの発生抑止,および家庭内感染の予防)を地域住民に提言した。2022年1月以降の第六波では,10歳未満,10代,そして子育て世代の30代の感染者が増加し,保育施設・小学校におけるクラスターも増えていたことから,これら施設においてクラスターが発生した際の家庭内感染の予防徹底を呼びかけた。結論 時・場所・人の情報を含むCOVID-19流行状況をまとめた図を作成・公開する中で得られた気づきを基に,地域住民に対して具体的な感染対策を提言することができた。本報告は,自治体が公表している感染者情報を用いた新たな公衆衛生活動の方策を示した一例と考えられる。
著者
藺牟田 洋美 安村 誠司 阿彦 忠之 深尾 彰
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.49, no.6, pp.483-496, 2002 (Released:2015-12-07)
参考文献数
51
被引用文献数
3

目的 寝たきり予防を積極的に推進するため,在宅高齢者における自立度の 1 年後の変化と自立(ランク J)と準寝たきり(ランク A)の高齢者の自立度の改善・維持と悪化の予測因子の相違を初回調査の身体・心理・社会的側面から総合的に検討した。方法 1997年に山形県内の65歳以上の高齢者に個別面接調査を実施した。1998年,同一の対象者に追跡調査を実施した。自立度の基準とした「障害老人のための自立度判定基準」(以下,判定基準)の自己評価と他者評価が一致した165人(ランク J:自立112人,ランク A:準寝たきり53人)を分析対象とした。調査項目は判定基準のほか,身体・心理・社会的項目20項目であった。なお,予測因子の分析では自立,準寝たきりともに改善・維持,悪化の 2 群に分類して検討した。成績 1. 1997年の自立度別にみた 1 年後の転帰:死亡は自立が0.9%,準寝たきりが7.6%であった。女性,または75歳以上である場合,自立度が低下するほど,死亡者は多かった。 2. 自立度別にみた 1 年後の自立度の変化:自立高齢者の23.1%で自立度が悪化した。準寝たきりで自立度が改善した者は35.4%,悪化した者は14.6%であった。性・年齢階級による自立度変化への影響は認められなかった。 3. 自立高齢者の自立度変化の予測因子:身体的項目では,過去 1 年間の入院あり,心理的項目では自己効力感が低いこと,主観的健康感が悪いこと,社会的項目では老研式活動能力指標得点が低いことが自立度低下と関連していた。 4. 準寝たきりの自立度変化の予測因子:身体的項目では排尿が要介助であること,心理的項目では自己効力感の得点が低いことが自立度の悪化に関連していた。結論 在宅高齢者では,自立度の悪化にともない,女性,または後期高齢者の場合,1 年後死亡になりやすいことが示された。また,1 年後の自立度変化では,準寝たきりで自立に改善した者が,寝たきりに悪化した者よりも多かった。在宅高齢者の 1 年後の自立度は可逆的であることが示された。 自立,準寝たきりともに自立度の悪化と心理的項目の自己効力感が結びついていることが明らかとなった。簡単な掃除など身の回りの行動に対して自信が持てないことを意味する自己効力感が低いことが,自立・準寝たきり高齢者の 1 年後の自立度を予測する上で極めて有効であることが明らかになった。