著者
三須田 善暢
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.95-106, 2015-07-16 (Released:2018-03-28)
参考文献数
4

本稿では,新規就農者たちによる助け合い・直売・ボランティア活動を中心とする団体(新農業人ネットワーク)を取りあげ,その展開過程を具体的な事例に即して見るなかから,彼らの活動の特徴とその含意を明らかにする. Iターンなどの新規就農者は,「自分自身の確固とした宇宙」をつくる傾向が強く,個性的な人間が多い.そうした彼らがこうした団体を結成し活動を続けてきたのは,販路を確保するという経済的理由にくわえ,地域と密に溶け込み難いゆえに同じ境遇である仲間の協力を必要としたからでもあった.この助け合いの精神と,自らの経営を単なる自己利害のためにとどめたくないとする志向があいまって,引きこもり・障碍者支援や高校生の就学援助,環境保全,震災ボランティア,独自の就農支援企画等の「公共性」の強い活動へと向かわせていった.別言すれば,ある意味で「社会運動」としての側面を強く持ったものへと進展していったのである.彼らの活動は,生活のためであると同時に遊びの要素と「夢」を含んだ側面が強く,それが公共的なものと結びつきあらわれている.しかし,彼らが述べ志向する公共性は,現時点では地元農村地域,特に集落との関わりが薄いものにとどまっている.
著者
三須田 善暢
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.107-117, 2014-07-25 (Released:2015-08-24)
参考文献数
26

本稿では,日本農村社会学の先駆的業績と位置づけられる新渡戸稲造農業論の主著『農業本論』を中心に取り上げ,これまでの先行研究ではあまり論じられてこなかった点――特にモノグラフ研究法の手法と全人的な農民把握――に注目し,彼の思想の特質と農村社会学上の先駆性をあきらかにする.くわえて,現在からみての農村社会学に対する意義を示唆的に提示する.その際には新渡戸の提唱した「地方学」および彼の都市農村関係論,とりわけ“農工商鼎立併進論”,さらにはその基盤にある農民心理・性格等の分析に注目する. 新渡戸は,当時の農民の心理,意識,道徳等を平等な人間観にもとづき全人的に把握している.それによって,中央集権的に上から教化しようとする姿勢から,一線を画すことができた.地方学にこめられた地域の自立を重視する姿勢の基盤には,このような,新渡戸の農民把握の姿勢が存している.そこには,当時の小農保護論の問題状況のなか,地方(農業)の担い手を自立的な農民にもとめていたことが関わっている.このことと,地方学の構想,都市工商業との関係,農工商鼎立併進論の志向は連関しあっているのである.こうした点において,新渡戸農業論を,いわゆる内発的発展論の系譜に位置づけることは可能であろう.特に地方学は,日本農村社会学のモノグラフ研究の系譜に位置づけるべきものであろう. 新渡戸農業論は日本農村社会学その他の先駆的な位置におかれうるものだが,単に先駆的というだけではなく,専門分化していない時期のダイナミズムだからこその視角・着眼等を汲み取りえる業績といえる.
著者
三須田 善暢
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.100, pp.9-38, 2017-09-14 (Released:2021-12-12)
参考文献数
7

本稿は、Iターン就農者が農業面・生活面で重要な位置を占めるようになった集落のここ数年の現状と展望を、営農=生活志向および部落総会での議事から考察したものである。その結果、以前の調査時点(二〇〇七-八年)よりも、営農継承に対する危機感が強まり、ちょうど二〇一六年末に組織された集落営農法人と相俟って、集落営農への意向が強まりつつある。また、非農家を含めた営農=生活志向を概観するとき、将来世代にわたっての集落への定着志向が弱くなっており、代替わり時などでの離村も増え、いわゆる「限界集落」にすすむ可能性もある。また、伝統的な集落の祭礼の開催を減らす動議や、組編成を効率化する議案が総会で出され、その賛否に関して紛糾するなど、生活面で〝合理化〟の傾向がうかがえる。こうしたなかで、集落存続と行事の活性化を志向するリーダーたちは、Iターン者、非農家をも巻き込んでの活性化を試みている。ただしそれは、Iターン者に多くを頼るという形ではない。この集落に、集落を盛り上げていこうとする力量があり、それがあるからこそIターン者を組み込んだ活性化の方向に動いているといえる。その際には集落の中間集団が担っている役割の意義を、その限定性とともに踏まえていくことが求められよう。
著者
三須田 善暢
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.97, pp.105-131, 2015-12-18 (Released:2022-01-14)
参考文献数
7

新規農業参入者の定着過程において障壁とみなされてきた村落は、村落内集団への溶け込み如何によって資源ともなりうるとの指摘がされてきた。しかし、新規参入者が村落に入り込むにつれ、これまで後見人的な存在であった重要人物(村落運営の中心的担い手)らとの関係性に多くの変化が生じ、彼らから「問題」視されるようにもなっている。本稿はその過程を詳細に追うなかから、その「問題」があらわれてきた理由を考え、そこに示唆される現代村落の特性を把握しようとした。 その結果次のことが明らかになった。参入者の経営規模が拡大し相当程度の信頼を獲得すると、ほかの住民と同等に見られるようになる。この段階で村落「規範」への同調がより強く期待されるようになるが、しかし、参入者は以前の役割期待を持って行動していたため、これまであれば問われなかった行動も「問題」視されるように変化していたのである。この村落「規範」とは、一戸前としての村入りを選択した成員に対して要求される、村人相互のつきあい方および村内諸役割の引き受け方・こなし方に関わる当為則とまとめられよう。 また、このように生活面での重要性が多く関わっていることに、現在の村落の特性の一端があらわれていると思われる。