著者
上掛 利博
出版者
京都府立大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
2000

ノルウェー法務省警察局のリーネ・ナースネス氏によれば、個人番号は、住民統計をはじめ、納税、福祉、年金、医療のカルテ、保険、銀行口座、事業主、学校などで使われている。「個人番号のない人はノルウェーでは人ではない」といってもよい程、公的な部分の生活をカバーしている。警察は、あまり使っていない。名前と住所の他は、守秘義務があるのでアクセスすることは難しい。プライバシーを守る法律がある。ダイレクトメールにも決まりがある。個人番号は行政には便利なシステムである。市民の側は、個人番号の弊害にも「慣れた」といえる。また、家庭内暴力(DV)と個人番号制度には深い関係があって、離婚したり別居中の男性が、銀行や福祉事務所から女性の個人番号を聞きだしてシェルターに押しかけてきた例もあるので、本人があらかじめ住所を隠せるように手直ししたし、さらに、暴力を受けた女性や裁判中の犯人については、新しい番号に変えることができるように法律の改正を検討している。児童家庭省のアンネ・ハブノール氏によれば、1976年のブリュッセルの女性会議で、ノルウェーの女性運動家が参加して家庭内暴力に光を当て社会問題化した。シェルターにきた利用者は、名前や住所や個人番号を明かさなくても良い。弁護士、警察、福祉事務所がサポートする。子どもの権利と親の権利が対立し、母親が子どもの情報を出さないこともある。また、DVシェルター全国事務局のトーベ・スモダール氏によれば、1995年からの5年間にDVやレイプで40人の女性が殺され、恐怖を感じて自分の生命を守るために移動している女性が、彼女の元にも1,000人いるという。ノルウェーでの聞き取りで、個人番号制度は極秘の部分が多く、資料を送るのでそれを検討してから質問を受けるとされたこと、また福祉政策との関連ではDVの問題が大きいことは分かったが、税金や福祉事務所などでの実際の運用面の調査は今後の課題である。