著者
上村 恵一
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.8, pp.789-795, 2016 (Released:2016-08-01)
参考文献数
13

がん患者は告知後, 治療中, 再発時, 治療の中止を告げられたときなど多大なストレスに曝露されるためメンタルヘルスの危機にさらされる機会が数多くある. そんな中で, 希死念慮を呈することも少なくない. 疫学研究では, がん患者の自殺率は一般健康人と比べて2倍程度高く, そのリスクが最も高いのは診断後間もない時期であり, 男性, 診断時の進行がん, 頭頸部がんなどが危険因子とされている.  多くの危険因子が知られているものの, 危険因子の把握のみが自殺予防にとって最も重要なわけではないことが最近の多くの研究で指摘されている. 本稿で紹介するJoinerの対人関係理論は, これまでの自殺に関する研究知見を包括的に説明し, かつ臨床においてリスク評価および介入までを連続的に提示しているモデルとして期待されている. 希死念慮を呈したがん患者に対して, その背景にある苦痛を理解しようとする共感的な態度が必須であることはいうまでもない.
著者
川島 夏希 久永 貴之 浜野 淳 前田 一石 今井 堅吾 坂下 明大 松本 禎久 上村 恵一 小田切 拓也 小川 朝生 吉内 一浩 岩瀬 哲
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.237-243, 2019 (Released:2019-09-26)
参考文献数
24

【目的】せん妄を呈した進行がん患者における苦悩の実態の検討.【方法】国内14施設の緩和ケア病棟に入院中または国内10施設の一般病棟に入院し精神腫瘍科が介入中の進行がん患者のうち,せん妄と診断され抗精神病薬の定期投与を受ける患者を前向きに連続サンプリングした.苦悩の有無を緩和ケア専門医が判断し,患者背景,DRS-R-98で評価したせん妄の重症度を比較した.【結果】対象患者818名のうち99名(12.1%)に苦悩を認めた.年齢,39歳以下,認知症の有無に有意差を認めた.治療前のDRS-R-98(15.3±8.1点 vs 17.3±7.8点,p<0.02)は苦悩を伴う群で有意に低く,情動の変容は有意に高かった.【考察】せん妄を呈した進行がん患者で苦悩を伴うものでは年齢が低く,認知症の併存が少なく,せん妄の重症度は低く,情動の変容が強いことが示された.
著者
山本 亮 木澤 義之 永山 淳 上村 恵一 下山 理史
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.73-78, 2021 (Released:2021-03-16)
参考文献数
9

【目的】がん対策推進基本計画の改定で緩和ケア研修会の開催方法が変更され,対象が医師以外にも拡大された.本研究の目的は,新指針緩和ケア研修会の教育効果を受講生の自己評価により検証することである.【方法】2018年度に新指針緩和ケア研修会を修了したすべての受講生を対象とし,研修開始時と修了時の緩和ケアの知識(PEACE-Q)および緩和ケアの困難感(PCDS)のスコアを比較した.【結果】11,124名が研修会を修了した.研修開始時と修了時を比較すると,PEACE-Qは24.1から30.0と上昇(p<0.0001),PCDSは45.2から39.2へと低下した(p<0.0001).職種ごとの解析でも同様の結果であった.【結論】新指針緩和ケア研修会でも,研修会修了時に緩和ケアの知識は向上し,困難感は低下していた.職種ごとの解析でも同様の結果であり,本研修会の教育効果は職種によらず認められることが示唆された.