- 著者
-
上野 正雄
- 出版者
- 日本犯罪社会学会
- 雑誌
- 犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
- 巻号頁・発行日
- vol.42, pp.65-71, 2017 (Released:2018-10-31)
少年法は保護処分すなわち教育によって少年を更生させようとする.しかし,近時の少年法を巡る 動きを見ると少年の責任を追及するという姿勢が強くなってきている.その背景には,少年を可塑性 が高いという点で質的に成人と異なる存在と見るか(子ども観),少年と成人の連続性を重視して本質 的な相違はないと見るか(小さな大人観),法対象者の見方の違いがある.このような中で,近時の脳 科学・神経科学の進歩は,衝動的行動を抑制する前頭前皮質の成熟は20代後半まで緩徐に進行するが, 感情をつかさどる大脳辺縁系は10歳頃に始まる思春期に成熟が促進され,この両者の成熟速度の不均 衡のため,10代の若者は危険な行動に走りがちだが,一方で環境に素早く適応することができる,と いう知見をもたらした.これは「子ども」観が拠って立つ科学的根拠の一つとなる.反面,非行少年 に対する責任を追及するという方策は,少年の更生とそれによる社会の安全確保にとって望ましいも のではないことになる.その上で,「子ども」観の徹底という点から,少年法上のいくつかの制度につ いてどのように解釈し,運用することが適切なのかを検討する.