著者
吉永 悟志 西田 瑞彦 脇本 賢三 田坂 幸平 松島 憲一 富樫 辰志 下坪 訓次
出版者
CROP SCIENCE SOCIETY OF JAPAN
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.481-486, 2000-12-05 (Released:2008-02-14)
参考文献数
16
被引用文献数
9 7

近年, 水稲の湛水土中直播栽培において出芽安定化のために播種後の落水管理が一般に行われてきている.そこで, 播種後の水管理と施肥窒素の動態や水稲の窒素吸収との関係について検討し, 落水管理が水稲の生育・収量へ及ぼす影響を明らかにするための試験を行った.水管理と出芽との関係については本試験においても播種後落水を行うことによる出芽率の向上および初期生育の促進が確認された.苗立ち後の生育は肥効調節型の被覆尿素肥料(LP100)を基肥に施用した場合には播種後の水管理による生育・収量の差は小さかったが, 速効性肥料である硫安を基肥に施用して播種後の落水管理を行った区では硫安施肥を行って湛水管理を行った区に比較して幼穂分化期までの窒素吸収量が低下し籾数不足による減収を生じた.基肥に硫安を施用し播種後落水管理を行った場合には, 初期生育および初期分げつが顕著となるために生育初期の窒素吸収量が顕著に増大すること, また, 落水にともなう施肥窒素の硝酸化成によると推定される土壌中アンモニウム態窒素含有量の低下が生じることが示されたため, これらの要因により幼穂分化期までの窒素吸収量に差を生じたものと推察された.このことから, 播種後落水管理を行う場合には初期の肥効を抑制するとともに, 生育中期の窒素不足を回避するような施肥法を行うことが, 直播栽培における出芽・苗立ちの安定化と生育・収量の安定化の両立に重要となると考えられる.