著者
中屋 志津男
出版者
地学団体研究会
雑誌
地球科學 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.113-129, 2006-03-25

紀伊半島四万十累帯音無川帯の古第三系暁新統〜下部始新統音無川層群は下半部が半遠洋性ないし遠洋性の堆積物,上半部が海底扇状地堆積物からなる.音無川帯は東西に延びる帯状構造を示し,南フェルゲンツの非対称褶曲と北傾斜のスラストからなる褶曲-スラスト構造が繰り返す地質構造で特徴づけられる.報告地域は本宮-皆地断層と古屋谷断層に境される1つの褶曲-スラスト構造からなる.音無川帯はプレート収束域に形成された付加体である.音無川付加体には,付加体形成時の褶曲構造(F1褶曲)と,音無川帯の帯状構造,褶曲-スラスト構造を屈曲変形させているF2褶曲が認められる.その1例として,F2褶曲によって複雑に屈曲している古屋谷断層について記載した.F2褶曲は北東-南西および北西-南東の二方向の褶曲軸を持つ共役褶曲である.これらの共役褶曲から求められた最大圧縮主応力(σ1)はほぼ東西である.音無川層群は堆積後付加体の形成によって帯状構造の方向に異方性の強い地質体になった.さらに前期中新世のころに,帯状構造にほぼ平行な圧縮応力を受けて共役褶曲が生じ,音無川付加体の屈曲構造が形成された.この共役褶曲による屈曲構造は太平洋プレートの運動によるものと解釈した.