著者
松岡 弘泰 松原 寛知 国光 多望 中島 博之
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.547-553, 2022-07-15 (Released:2022-07-15)
参考文献数
15

末梢挿入型中心静脈カテーテル(Peripherally inserted central catheter:以下PICC)は,中枢挿入型に比べて挿入が簡便で危険性が低い.両者に共通して,稀な合併症としてカテーテル先端の血管外穿破や膿瘍形成が知られている.当科で経験したPICCによると判断された縦隔炎の一例を報告する.症例は60歳男性で,下咽頭癌に対する化学療法中の発熱・食事摂取困難に対し,PICCが留置された.一時的な炎症所見改善の後に再増悪した.挿入後15日目にカテーテル閉塞のため抜去したが,同日のCTで縦隔炎を認めた.緊急で胸腔鏡下縦隔切開術を施行し,集中治療を要したが救命しえた.中心静脈カテーテルが原因と考えられる縦隔炎の報告は自験例を含めて9例あり,その内3例が感染による縦隔炎との判断から手術治療が行われた.抗癌剤や高カロリー輸液による化学性炎症であれば保存治療可能であるが,感染を疑った場合には速やかに手術に踏み切るべきである.
著者
清水 篤 中島 博之 長田 裕明 長澤 淳 京極 方久
出版者
The Japanese Society for Cardiovascular Surgery
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.77-80, 2011

症例は73歳,男性.遠位弓部大動脈の最大径66 mmの嚢状瘤に対し全弓部置換術を施行した.胸骨正中切開,上行大動脈送血と上下大静脈脱血で人工心肺を確立し,中等度低体温循環停止,選択的順行性脳灌流を行いエレファントトランク,ステップワイズ法にて遠位側吻合を行った.その後頸部3分枝再建を先行し,最後に中枢側吻合を行った.手術時間515分,人工心肺時間305分,大動脈遮断時間213分,脳分離灌流時間143分,下半身循環停止時間97分であった.術後5日目に発熱と右側腹部痛,炎症反応上昇を生じ,翌日になっても症状は改善せず,CTで急性胆嚢炎および急性腹膜炎と診断し,術後6日目に緊急開腹胆嚢摘出術を施行した.胆嚢周囲に漏出した胆汁性腹水が存在したが,培養結果は陰性であった.病理所見は,胆嚢頸部に虚血による非細菌性非貫璧性の胆嚢壊死が存在するとの結果であった.胆嚢摘出術術後は経過良好であり,初回手術から16日目に独歩退院となった.全弓部置換術後は下半身循環停止やdebrisの飛散など消化管虚血のリスクは高く,術後の急性腹症の鑑別診断として稀ではあるが重篤化することもある胆嚢梗塞を考慮する必要があると考えた.
著者
中島 博之
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.118, no.2, pp.117-122, 2001-08-01
被引用文献数
15

クロバザム(CLB)は新規のベンゾジアゼピン(BZP)系抗てんかん薬である. ジアゼパムに代表される既存のBZP系薬剤が複素環の1,4位に窒素原子を有する1,4-BZPであるのに対し, CLBは1,5位に窒素原子を有する初めての1,5-BZPである. CLBのBZP受容体に対するKi値(nM)は2,130と1,4-BZPに比べ, 親和性が弱いものの, サブタイプ型別では, 1,4-BZPに比べ, 抗けいれん作用に関与するω<SUB>2</SUB>受容体に対し, より高い選択性が認められている. マウスを用いた種々の薬物誘発けいれんおよび最大電撃けいれんにおいてCLBが抗けいれん作用を示す用量は近接しており, 更に1,4-BZPに比べ, 抗けいれんスペクトラムが広い可能性が示唆された. 更にラットにおける扁桃核(AMY)および海馬(HIP)キンドリング試験で, CLBは経口投与および腹腔内投与で用量依存的なキンドリング発作抑制作用を示した. また, 抗けいれん作用発現用量と協調運動機能低下作用発現用量から求められた保護係数(PI)は1,4-BZPよりも概して高く, 安全性が高いことが示唆された. ヒトでは既存の抗てんかん薬で発作の軽減がみられない症例への併用薬として, Lennox-Gastaut症候群や側頭葉てんかんを中心とする難治性てんかんに対する臨床試験で, 幅広い効果スペクトルと高い有効性および安全性が認められている.