著者
坂口 泰人 千葉 直久 齊藤 正男 石川 真也 中川 達雄
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.464-468, 2018-05-15 (Released:2018-05-15)
参考文献数
12
被引用文献数
1

肺結節陰影を呈した肺スエヒロタケ(Schizophyllum commune)症の1切除例を経験したので報告する.症例は58歳,女性.職場健診にて右肺の異常陰影を指摘され,前医に紹介となり,CT検査で右肺上葉に空洞を伴う結節影を認め,精査加療目的で当科に紹介となった.PET検査では同結節に軽度の集積を認め,診断および治療を兼ねて胸腔鏡下手術を行った.術中迅速診断では悪性所見を認めず,肺部分切除を施行した.術後の気漏が遷延したこと,および,その後の検査で肺アスペルギルス症が疑われため,再手術にて右肺上葉S1+S2区域切除を行った.術後の培養検査からアスペルギルスとは同定されず,遺伝子検査の結果,肺スエヒロタケ症の診断に至った.術後経過は良好で術後5年の現在,肺スエヒロタケ症の再燃はみられない.
著者
深見 武史 堤内 亮博 井上 雄太 吉田 幸弘 村川 知弘 中島 淳
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.444-447, 2012-05-15 (Released:2012-06-18)
参考文献数
18

症例は62歳,男性.1953年(8歳時)に甲状腺腫で甲状腺右葉切除後,1955年に全肺野の粟粒状陰影と頚部リンパ節腫脹を指摘された.リンパ節生検と右肺S3部分切除術が施行され,甲状腺乳頭癌肺転移,リンパ節転移と診断された.化学療法と放射線外照射施行後も変化は乏しく,経過観察となった.2008年5月検診にて前立腺癌を疑われ,精査中,胸部X線にて左肺腫瘤影を認めた.前立腺生検にて前立腺癌は否定されたが,胸部CTにて左肺上葉に21 mm大の不整な結節と両肺に数mm大の小結節を多数認めた.原発性肺癌もしくは甲状腺癌肺転移を疑い,確定診断目的に胸腔鏡下左上葉部分切除を施行.甲状腺癌肺転移とその多発陳旧性病変との診断を得た.甲状腺癌術後30年以上経過して再発する症例は稀であり,本症例が最長であった.
著者
松岡 弘泰 松原 寛知 国光 多望 中島 博之
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.547-553, 2022-07-15 (Released:2022-07-15)
参考文献数
15

末梢挿入型中心静脈カテーテル(Peripherally inserted central catheter:以下PICC)は,中枢挿入型に比べて挿入が簡便で危険性が低い.両者に共通して,稀な合併症としてカテーテル先端の血管外穿破や膿瘍形成が知られている.当科で経験したPICCによると判断された縦隔炎の一例を報告する.症例は60歳男性で,下咽頭癌に対する化学療法中の発熱・食事摂取困難に対し,PICCが留置された.一時的な炎症所見改善の後に再増悪した.挿入後15日目にカテーテル閉塞のため抜去したが,同日のCTで縦隔炎を認めた.緊急で胸腔鏡下縦隔切開術を施行し,集中治療を要したが救命しえた.中心静脈カテーテルが原因と考えられる縦隔炎の報告は自験例を含めて9例あり,その内3例が感染による縦隔炎との判断から手術治療が行われた.抗癌剤や高カロリー輸液による化学性炎症であれば保存治療可能であるが,感染を疑った場合には速やかに手術に踏み切るべきである.
著者
和田 啓伸 門山 周文 坂入 祐一
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.22, no.7, pp.1033-1037, 2008-11-15 (Released:2009-06-04)
参考文献数
16

症例は30歳代,男性.統合失調症で入院中だったが,自宅外泊中に自殺企図で約100mlの灯油を飲んで,当院に搬送された.初診時の理学所見,画像所見は異常なかったが,入院6時間後より頻呼吸,喘鳴,低酸素血症が出現し,右下肺野に浸潤影を認め,灯油誤嚥による化学性肺炎と診断し,直ちに人工呼吸管理を開始した.抗生剤を使用し肺炎像は収束していったが,中葉に肺膿瘍を疑わせる径6cmの腫瘤影が残存したため中葉切除を行った.術後経過は順調で,第30病日に前病院へ転院となった.近年の抗生剤の発達により,肺膿瘍に対する手術適応は限られているが,症例を選択すれば有効な治療手段になり得ると思われた.
著者
中島 大輔 住友 伸一 松本 和也 松岡 勝成 倉橋 康典 三崎 伯幸 中島 成泰
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.599-602, 2007-05-15 (Released:2008-11-17)
参考文献数
8

症例は30歳代,男性.拳銃で両側胸部,右上腕の3ヵ所を撃たれ,ショック状態で当院へ搬入された.胸部CT上,左胸背部の皮下組織と右胸腔に銃弾を認め,左胸腔に大量の血液が貯留していた.血胸による出血性ショック状態であり,左胸部は緊急開胸術を施行した.右胸部は銃弾の穿通路から肺,縦隔,横隔膜の損傷が疑われ,観察と銃弾摘出の目的で胸腔鏡下手術を施行した.術後CT上,銃弾貫通による肺裂傷を認めたが,合併症はなく,術後10日目に退院した.
著者
大内 政嗣 井上 修平 尾崎 良智 藤田 琢也 上田 桂子 花岡 淳
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.170-176, 2014-03-15 (Released:2014-04-28)
参考文献数
18
被引用文献数
1 4

シカ生肉が感染源と考えられたウエステルマン肺吸虫症の1例を経験したので報告する.症例は49歳,男性.腹部不快感に続く気胸,胸水のため当科紹介となった.発症2週間前にシカ生肉の摂食歴があり,末梢血と胸水の好酸球増多から肺吸虫症を疑った.胸水が高度に混濁しており,膿胸を合併した自然気胸の可能性を否定できず,胸腔鏡下手術を施行した.横隔膜と壁側胸膜に多数の膿苔が認められ,下葉の臓側胸膜にも膿苔が存在していたため,胸膜生検と下葉部分切除術を行った.血清学的診断で肺吸虫症と診断,プラジカンテルにより治療し,好酸球増多は改善した.術後13ヵ月を経過し再発を認めていない.肺吸虫症例を疑う症例では早期に血清学的診断を行い,迅速にドレナージと薬物療法を行うことが重要である.また,肺吸虫症における胸腔内病変の存在部位はメタセルカリアの移動経路に一致しているものと考えられた.
著者
塙 龍太郎 重信 敬夫 田島 敦志
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.33, no.5, pp.578-586, 2019-07-15 (Released:2019-07-15)
参考文献数
6
被引用文献数
1 1

3D医用ワークステーションの普及により,CT画像の三次元化が容易になった.血管走行のバリエーションが多い肺外科手術では,肺動静脈を分離した三次元画像を用いたシミュレーションは広く行われている.しかし,現在国内で販売されているワークステーションは,肺動静脈を分離した三次元画像作成のために原則造影CTを必要とし,喘息,アレルギー,腎機能低下症例等において,その施行が躊躇される場合,作成は困難であった.近年,呼吸器分野におけるワークステーション利用法の一つとして,末梢肺野病変に対する気管支鏡検査における仮想気管支鏡が,代表例として挙げられるが,こちらは,気管・気管支内の空気,含気のある肺組織を陰性造影剤として単純CTから作成されることが多い.肺血管周囲にも空気が存在することに着目したところ,単純CTからでも肺動静脈を分離した三次元画像作成が可能となったため,その方法について述べる.
著者
藤野 孝介 久保田 伊知郎 本岡 大和 池田 公英 森 毅 鈴木 実
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.27, no.6, pp.670-674, 2013-09-15 (Released:2013-10-01)
参考文献数
11

肺切除後の気漏や手術を避けたい気胸患者に対して50%ブドウ糖液を使用した胸膜癒着術を施行し良好な成績を得ているので報告する.方法は,50%ブドウ糖液200 mlと1%キシロカイン10 mlを胸腔内に注入する.2012年4月から7月までに11例に施行し9例で成功し,2例は不成功でありOK-432による胸膜癒着術に変更し気漏の消失に至った.この2例は高度の肺気腫を伴い気漏の量が多い症例であった.本法はOK-432と比較すると胸膜癒着効果は弱い可能性があるが,十分に胸膜癒着効果を認め,また,胸痛や発熱などの副作用は非常に少なく,間質性肺炎の患者2例でも安全に使用できた.以上より,本法は簡便かつ安全で有効な治療法であり胸膜癒着剤として最初に試みてもよい方法であると考える.
著者
蒔本 好史 大渕 俊朗 岩﨑 昭憲
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.126-129, 2020-03-15 (Released:2020-03-15)
参考文献数
6

我々は急性高炭酸血症により吃逆が停止する際の具体的生理条件を発見し報告した.その条件を短時間で誘導する装置を開発.難治性吃逆症例で奏功したので報告する.症例は難治性吃逆の40代女性.2年前,腹部膨満を主訴に近医を受診.吃逆による呑気症と診断された.柿蔕湯やメトクロプラミドを処方されたが改善しなかった.吃逆が原因で1年前から引きこもりとなり,向精神薬や消泡薬を内服中.各種内服薬以外に様々な民間療法(飲水,息止め,両耳に指を強く押し込むなど)も試したがいずれも奏功しなかった.当科に直接依頼があり,同意を得た後,90%酸素と10%炭酸ガスから成る混合ガスの吸入を行ったところ,吃逆は5分余で停止した.吃逆は血中炭酸ガス分圧の急速な上昇により停止することが確認された.
著者
松本 博文 佐野 功 谷口 英樹
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.28, no.5, pp.585-589, 2014-07-15 (Released:2014-08-20)
参考文献数
10

症例は69歳女性.自覚症状無く胸部CTで右上葉S3に径13 mmの境界明瞭な結節影を認めた.明らかなリンパ節腫大の所見無し.術前診断では良性疾患を疑われ手術目的に当院紹介された.手術は胸腔鏡補助下右S3区域切除を施行.腫瘤の割面は白色で境界明瞭であった.術中迅速組織診で確定的な所見は得られなかったものの悪性所見は認めなかった.永久標本では肺実質内に存在する境界明瞭な腫瘍で短紡錐形細胞が密に増生し血管肉腫様パターンを呈していた.組織像のみでは確定的な診断は得られず最終的には免疫組織染色から肺原発筋上皮腫と診断された.核分裂像や脈管侵襲は明らかではなく,低悪性度腫瘍と思われた.筋上皮腫は通常唾液腺等に認められる比較的予後の良い腫瘍であるが,時に再発や遠隔転移を来たす事もある.肺原発の筋上皮腫は非常に稀でその臨床的特徴に関する報告は極めて少なく,若干の文献的考察を加えて報告する.
著者
豊川 剛二 庄司 文裕 川野 大悟 吉田 月久 矢野 篤次郎 前原 喜彦
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.23, no.7, pp.946-950, 2009-11-15 (Released:2010-01-28)
参考文献数
16
被引用文献数
1 2

我々は,関節リウマチ治療中に肩甲胸郭関節に生じた滑液包炎の1例を経験した.症例は46歳女性.胸部単純X線検査にて左第6肋骨変形および右第6肋骨の透過性亢進を認め,CT上,両側肩甲骨下に低濃度腫瘤影を認めた.また,MRIにて前鋸筋と胸壁の間にT1WIで低信号,T2WIで高信号の嚢胞性腫瘤を認めた.画像検査,腫瘤内容液の培養検査および細胞診にても確定診断に至らず,結核の既往歴から結核性膿瘍を疑い抗結核薬の投与を行ったが,左側腫瘤が増大したため,診断および治療目的に手術を施行した.病理組織検査にて滑液包炎と診断した.今回,関節リウマチが原因と考えられる肩甲胸郭に生じた滑液包炎の1例を経験したので報告した.非常に稀であるが,関節リウマチ患者で肩甲骨下に嚢包性腫瘤を認めた場合は,肩甲胸郭滑液包炎も鑑別として考えるべきである.
著者
渡邉 裕樹 岡阪 敏樹 平松 義規
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.200-205, 2019-03-15 (Released:2019-03-15)
参考文献数
23

症例は45歳の男性.突然の左背部痛を主訴に救急搬送された.既往に神経線維腫症1型(NF1)があった.造影CTで左大量胸水を認め胸腔ドレナージを施行,血性胸水を認め特発性左血胸と診断した.CTで左第11肋間動脈の蛇行・拡張を認めたが出血部位を特定できる明らかな所見は認めず,出血源検索および血腫除去を目的に審査胸腔鏡手術を施行した.左第11肋横関節近傍の壁側胸膜下に少量の出血を伴う拍動性の膨隆を認め,シート状組織接着剤を貼付,さらにフィブリン糊を噴霧したところ止血が得られた.術後8日目に肋間動脈造影を施行,第11肋間動脈瘤を認めたため本例は同動脈瘤の破裂による血胸であったと診断,塞栓術を行った.NF1では肋間動脈瘤破裂による血胸例の報告も散見されるため診断に際しては念頭に置く必要がある.本例のごとく胸腔鏡下に圧迫等の止血術を行い,二期的に塞栓術を行うことも治療法の選択肢となり得ると考えられた.
著者
坪井 光弘 吉澤 潔 環 正文 三浦 一真
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.079-084, 2012-01-15 (Released:2012-02-29)
参考文献数
15

症例は25歳,女性.咳嗽を主訴に近医を受診したところ,胸部X線にて右肺に多発腫瘤影を指摘された.CTで右上葉に多発する石灰化を伴った粗大な結節が認められると同時に,胃体部大弯に粘膜下腫瘍を指摘された.右肺上中葉切除,胃部分切除を施行したところ,肺腫瘍は軟骨腫,胃粘膜腫瘍は消化管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor; GIST)と診断された.1977年,Carneyらは胃平滑筋肉腫(現在ではGISTとして扱われている),肺軟骨腫,副腎外傍神経節腫の3つの稀な軟部腫瘍を合併する症例をひとつの症候群(Carney's triad)として提唱した.しかし3病変をすべて合併する完全型は稀であり,診断は上記3病変のうち2病変以上の合併をもってなされる.本症例は胃,肺の2病変のみを有する不完全型Carney's triadと考えられた.Carney's triadは極めて稀な疾患であり,自験例を含めた本邦での報告11例の文献的考察を加えて報告する.
著者
仲澤 順二 新関 浩人 京極 典憲 楢﨑 肇 上村 志臣 八木 優樹
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.575-579, 2022-07-15 (Released:2022-07-15)
参考文献数
8

胸水ドレナージ後の稀な合併症の一つにEx Vacuo Pneumothoraxというものがある.これは慢性胸膜炎により脆弱化かつ硬化した臓側胸膜が,胸水を抜かれた空間に生じる陰圧によって,損傷し発症する気胸である.当院では,過去10年でこのEx Vacuo Pneumothoraxを2例経験した.両症例とも悪性胸水ドレナージ後,肺が全拡張できずに気胸を発症した.悪性胸水に生じたEx Vacuo Pneumothoraxの治療方法は議論のあるところであるが,自験例は耐術能があり,エアリークも多かったため外科治療を行った.両症例とも胸腔鏡で胸腔内を確認すると肺にブラはなく,気瘻が複数認められた.癌性胸膜炎に伴う臓側胸膜の脆弱化を考慮して,気瘻部位の切除は行わずに,タコシールやネオベールシートなどで補強して手術を終了し,エアリークをコントロールすることができた.
著者
藤原 俊哉 片岡 和彦 松浦 求樹 妹尾 紀具
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.22, no.5, pp.753-759, 2008-07-15 (Released:2009-02-02)
参考文献数
12
被引用文献数
2 2

肺癌診療においてFDG-PET検査の有用性は知られているが,偽陽性,偽陰性症例も少なからず認められる.我々は,2005年7月~2007年6月までの2年間で良悪性診断または病期診断の目的でPET検査を行い,最終的に当施設で手術を施行した283症例を対象として,その有用性と問題点について検討した.内訳は男:女=156:127,平均年齢は66.3歳であった.良悪性診断の感度72.7%,特異度60.5%で,腫瘍径20mm以下のものでは偽陰性が多かった.組織型では肺胞上皮癌の成分を多く含む高分化腺癌や粘液の多い病変は多くの場合PET陰性であった.その一方で細胞密度の高い扁平上皮癌などは高感度に検出された.リンパ節転移診断は感度68.0%,特異度93.2%で特異度は高いものの偽陰性が多く,過小評価をする可能性があった.PET検査の有する長所,短所を十分理解し,臨床的に活用していく必要がある.特に腺癌では原発病巣が偽陰性を呈することが多く,CT診断と併せて手術適応を決定すべきである.
著者
常塚 啓彰 加藤 大志朗 下村 雅律 寺内 邦彦 島田 順一
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.28, no.6, pp.748-753, 2014-09-15 (Released:2014-10-03)
参考文献数
11

Carney's triadは胃平滑筋肉腫,肺軟骨腫,副腎外傍神経節腫の3病変を伴う稀な疾患で,この内の2病変を発症したものを不完全型とされている.我々は初回手術後19年目に肺・胃の再切除を行った不完全型Carney's triadの1例を経験した.症例は30歳女性で11歳時に胃平滑筋肉腫の核出術を受け,21歳時に肺軟骨腫に対する肺部分切除術を施行され不完全型Carney's triadと診断された.今回PET-CTで左肺S1+2bの結節とFDGの異常集積を伴う胃腫瘤性病変を指摘された.胃病変はgastrointestinal stromal tumorと診断され幽門側胃切除術を施行された.肺病変に対し胸腔鏡下に左肺部分切除術を行い,病理学的に軟骨腫と診断した.再切除後5年経過しているが更なる新病変の出現は認めていない.Carney's triadでは異時性に腫瘍発生するため長期的に経過を観察する必要がある.
著者
橘 啓盛 池谷 朋彦 高橋 伸政 村井 克己 青山 克彦 星 永進
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.20, no.5, pp.790-794, 2006-07-15 (Released:2008-03-11)
参考文献数
17
被引用文献数
1

症例は38歳女性.月経に一致した左気胸を発症し当センターを紹介された.月経22日後に行った胸腔鏡下手術にて,肺瘻の部位や気腫性嚢胞は確認できなかったが,左胸腔内の臓側,壁側胸膜にびまん性に多発する褐色の結節を認めた.病理学的に臓側,壁側胸膜ともに子宮内膜組織を認め,月経随伴性気胸と診断した.術後第3病日に月経が開始し右気胸を併発したが胸腔ドレナージにより改善した.後にホルモン療法を施行し,術後1年の経過では気胸の再発を認めていない.本症例は月経直前に手術を施行したため脱落する前の病変が観察されたと考えられた.発症機序は腹腔からの子宮内膜組織の侵入と臓側胸膜病変の脱落による気胸発症と推測された.壁側胸膜に子宮内膜組織を認めることはまれであり,月経随伴性気胸の発症機序を考えるうえで,本症例は興味深く貴重な症例と思われた.
著者
生田 安司
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.370-374, 2020-07-15 (Released:2020-07-15)
参考文献数
9

気管支切開により摘出した気管支異物の2例を報告する.症例1は84歳男性で,歯科治療中に義歯を誤嚥し,摘出目的で当院へ紹介となった.手術は左底区気管支を横軸方向に切開し義歯を摘出した.症例2は精神発達遅滞のある60歳男性で,胸部レントゲン検査で気管支内異物を指摘され,摘出目的で当院へ紹介となった.手術は左主気管支を長軸方向に切開し異物を摘出した.手術による気管支異物摘出を行う場合,異物の材質や形状,異物の存在部位や介在期間,周囲の気管支肺の状態を考慮し,術式や気管支切開における切開方向を選択すべきである.
著者
鈴木 仁之 田中 啓三 金光 真治 徳井 俊也
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.20, no.5, pp.764-767, 2006-07-15 (Released:2008-03-11)
参考文献数
7
被引用文献数
1 1 2

Basedow病に胸腺過形成が合併する原因については,いまだ明らかにはされていないが,甲状腺機能亢進症により二次的に胸腺過形成が生じるという説や,ある種の免疫機構の関与を示唆する説がある.今回我々は,Basedow病に合併した胸腺過形成の2例を経験したので報告する.1例は甲状腺機能亢進症の遷延と,胸腺については腫瘍性病変の存在が否定できなかったために,甲状腺亜全摘と胸腺摘出術が施行された.もう1例では甲状腺機能は徐々に正常化したが,腫瘍の縮小を認めないため,生検が施行された.2例とも腫瘍性病変は認めず,胸腺過形成と診断された.しかし組織学的にはリンパ様過形成と真性過形成との違いが確認され,両者における胸腺過形成の背景因子ないし発生メカニズムの違いが示唆された.