- 著者
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中島 秀太
- 出版者
- 京都大学
- 雑誌
- 特別研究員奨励費
- 巻号頁・発行日
- 2012-04-01
本研究の目的は、量子縮退が実現されている原子種の中で最も軽いアルカリ原子であるリチウム(Li)と、最も重い原子であるイッテルビウム(Yb)を、個別にあるいは同時に多様な光トラップに導入し、より広範な強相関系の「量子シミュレーション」を実現することである。本年度はまず、前年度に構築した1次元光超格子系の2波長光格子の相対位相と振幅を動的に制御することで、"電荷ポンプ"と呼ばれる(量子化された)原子の移動現象(ポンピング)を研究した。実験には相互作用が無視できる2成分フェルミオン171Yb原子を用い、ポンピングによる光格子中での原子の移動をCCDカメラ上の吸収像から直接観測した。この"量子化"は、量子ホール効果と同様に「チャーン数」と呼ばれるトポロジカル不変量と直接関係しており、移動量の測定からこのポンピングにおけるチャーン数を評価した。またポンピングの有無が、超格子パラメーターの時間変化の軌跡が特異点を囲むか否かという"トポロジー"の違いで決定されるというRice-Mele模型にもとづく予言を確認するため、実際にトポロジカルに異なる2通りのポンピングサイクルを構築し、この両者のポンプ量に明確な違いがあることを実験で明らかにした。また後半では、ETH Zurichの量子光学研究室に滞在し、冷却Li原子集団をこの系のフェルミ波長の精度で操作・観測出来る高分解能光学系の技術を習得するとともに、この実験系を利用した冷却Li原子を用いたメゾスコピック系の量子シミュレーションの研究を行なった。特に、デジタルミラーデバイス(DMD)を利用した冷却原子系に対する走査型ゲート顕微法を開発し、光トラップによる"量子ポイントコンタクト"ポテンシャル構造の実空間観測、およびトラップ中の冷却原子の量子コヒーレンスの直接観測に成功した。このDMD技術は今後の冷却原子系への応用が期待できるものである。