著者
中川 諭
出版者
新潟大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

本年度は、昨年度の基礎的作業をもとにしてさらに研究を進めた。具体的には、昨年度明らかにした元代における「三国物語」の特徴をふまえた上で、特に「関雲長単刀会」と「桃園結義」の場面を取り上げて、深く考察を行った。まず正史『三国志』にも関連する記述が見られる場面として「関雲長単刀会」を取り上げ、『三国志』・『三国志平話』・「関雲長独赴単刀会」雑劇・『三国志演義』をそれぞれ比較した。その結果、『三国志』呉書「魯粛伝」などの記述が基礎となって、そこから『三国志平話』や「単刀会」雑劇に見られるような物語へと発展していったこと、そして『三国志演義』では『三国志平話』や「単刀会」雑劇に見られる「単刀会」の物語を基礎としながらも、そこに再び正史『三国志』の記述を引用していることが分かった。また『三国志演義』が成立するに当たって参照された歴史書は、従来言われてきたように『十七史詳節』などの通俗歴史書ではなく、正史『三国志』そのものであったことも指摘した。次に『三国志演義』などの三国物語の中ではフィクションとされる(すなわち『三国志』の中に直接的な記述がない)場面として、「桃園結義」の場面を取り上げて考察を行った。その結果、『三国志演義』の「桃園結義」の場面は直接『三国志平話』や「劉関張桃園三結義」雑劇をもとにして書かれたものではなく、宋元の頃に人々に知られていた「桃園結義」の伝説を基礎としながらも、作者が独自のオリジナル性を発揮しようとして書かれていることが明らかになった。また時に必要に応じて歴史書も参照していることも指摘できた。これらの成果をふまえて研究論文を執筆した。まもなく公刊される予定である。