著者
中川 雅晴
出版者
公益社団法人 日本口腔インプラント学会
雑誌
日本口腔インプラント学会誌 (ISSN:09146695)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.156-163, 2017-09-30 (Released:2017-11-05)
参考文献数
18

チタンは優れた耐食性を有するが,酸性フッ素環境では容易に腐食することが知られている.pHが低下しているプラーク内面や歯肉縁下などにフッ素含有歯磨剤が投入されると,一時的に酸性フッ素環境となりチタンの腐食が生じる可能性がある.一時的な腐食が長期間累積すると,腐食孔や腐食組織に発展する.腐食によって表面が粗糙化するとプラークや口腔内細菌の付着が助長され,インプラント周囲炎等の発症のリスクになるおそれがある.したがってチタンインプラントが埋入されている場合,フッ素含有歯磨剤の使用を控えるか,フッ素濃度の濃い歯磨剤がインプラント体に触れないように,インプラント埋入部以外の場所からブラッシングを開始することを推奨する.
著者
中川 雅晴
出版者
Japan Society of Corrosion Engineering
雑誌
Zairyo-to-Kankyo (ISSN:09170480)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.112-117, 2004-03-15 (Released:2011-12-15)
参考文献数
24
被引用文献数
5 3

現在, チタン製の口腔インプラントや歯科修復物の臨床応用が増加しているが, う蝕予防のために多用されるフッ素によってチタンやチタン合金が腐食することが問題となっている. 本研究では, フッ素含有環境における純チタン, Ti-6Al-4V, Ti-6Al-7Nb合金および新しく試作したTi-(0.1~2.0)wt%Pt (またはPd) 合金の腐食挙動を動電位分極測定, 腐食電位測定によって検討した. また試験溶液に浸漬する前と後の試料表面のSEM観察を行った. 試験溶液として0.1%および0.2%NaF (それぞれ453および905ppmのフッ素濃度に対応) を含有する人工唾液と溶存酸素濃度が低い人工唾液を用いた. フッ素を含有する酸性環境 (pH 4.0) では, 純チタン, Ti-6Al-4V, Ti-6Al-7Nb合金の試料表面は腐食によって顕著に粗造になったが, Ti-Pt (またはPd) 合金はほとんど影響を受けなかった. 溶存酸素濃度が低い環境では, 市販のハミガキ剤に含まれるフッ素濃度 (フッ素濃度として約1,000ppm) では, Ti-Pt (またはPd) 合金は腐食の影響を全く受けなかったが, 純チタン, Ti-6Al-4V, Ti-6Al-7Nb合金は微視的な腐食によるダメージを受けた. Ti-0.5wt%Pt (またはPd) 合金は, フッ素含有環境でも腐食しない高耐食性を有する新しい歯科用チタン合金として応用が期待される