著者
中村 宅雄 村上 弦
出版者
医学書院
雑誌
臨床整形外科 (ISSN:05570433)
巻号頁・発行日
vol.42, no.5, pp.397-401, 2007-05-25

ヒトの僧帽筋は肩甲骨を安定させ,肩関節の運動や肩甲骨の運動に関与する重要な筋である.僧帽筋裏面を走行する静脈は,1)動脈に伴走しない静脈が存在し,2)静脈の合流点の数は動脈の分岐点の数の1.5倍に達し,3)さらに静脈弁が欠落している,という特徴がある.また上大静脈へ流れる経路とは別に側副路として外椎骨静脈叢へ流れる経路が存在することも特徴として挙げられる.下大静脈を通る静脈還流は,腹圧や胸腔内圧の影響を受けやすいため,静脈還流が滞った際には椎骨静脈叢が重要な役割を果たすと考えられる.僧帽筋の静脈の特徴的な形態は,椎骨静脈叢の流出路であると同時に側副路であるという体幹の静脈還流上の特殊な位置付けから説明できるものと考える.また,これらの特徴を踏まえたうえで,理学療法において肩こりに関与する僧帽筋への手技の見直しが必要であり,静脈還流を促す方向へのマッサージを行うことによって,肩こりの改善を図ることができるのではないかと考える.
著者
山本 朗子 中村 宅雄
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.A3P3108-A3P3108, 2009

【目的】日常生活において,鞄を身に付けたまま動作を行う場面がしばしば存在する.鞄の種類は多様であるが,両手が自由になり,肩から掛けたまま荷物を取り出すことが可能等の利点からショルダーバッグを選択する人も少なくない.Motmans RRらは体重の15%の重さのショルダーバッグを身体の右側に持ったときの体幹筋活動の変化を検討し,右体幹筋活動が減弱したのに対し左体幹筋活動が増大したと報告した.これまでショルダーバッグの有無やバックパックに対する体幹筋活動・アライメントの変化についての研究は報告されているが,ショルダーバッグの体幹に対する位置関係の違いによる研究はなされていない.よって今回,ショルダーバッグの位置と荷物の重量の関係から,ショルダーバッグ使用時に身体に最も負荷の少ない条件を検討することを目的とした.<BR>【方法】被験者は脊柱疾患の既往がない20代健常男性・女性各10名とした.被験者に実験の目的・趣旨を十分に説明し,同意を得た上で実験を行った.表面筋電図(以下EMG)は1kHz/1msで測定し,被検筋は両側腹直筋,腰部脊柱起立筋群とした.左耳介,第7頚椎棘突起,第1腰椎棘突起,両肩峰,左大転子,左膝裂隙,左第5中足骨底に反射マーカーをつけ,前額面・矢状面の写真撮影を行い,アライメントを評価した.被験者に足部間距離15cmで立位保持を行ってもらい,ショルダーバッグを持たない条件(以下C群),ショルダーバッグの位置(前,横,後)・重量(体重の10%,15%)を変えた6条件で重心動揺・EMGを10秒間測定した.EMGはC群を100%として正規化した.統計学的分析には多重比較(Dunnett法)を用いた.<BR>【結果】被験者の平均年齢・身長・体重はそれぞれ21.5±0.9歳,166.1±5.7cm,58.1±5.7Kgであった.EMGではC群と(15%-前)群の左腹直筋間,(15%-前)群での左右腹直筋間でそれぞれ有意差が認められた(p<0.05).アライメントではC群と比較して(10%-横)群,(15%-横)群 で体幹左側屈,(15%-前)群で体幹伸展,(15%-後)群で体幹屈曲の有意差が認められた.重心動揺ではC群と比較して(15%-前,横,後)群に有意に総軌跡長が減少した(p<0.05).<BR>【考察】結果から,ショルダーバッグを体幹の横に持つ場合は体重の10%以上,体幹の前方および後方で持つ場合は体重の15%以上で身体に影響を及ぼすことがわかった.よってショルダーバッグを使用する場合には体幹の横で使用せず,かつ体重の10%未満の重量が望ましいことが示唆された.