著者
中村 宅雄 村上 弦
出版者
医学書院
雑誌
臨床整形外科 (ISSN:05570433)
巻号頁・発行日
vol.42, no.5, pp.397-401, 2007-05-25

ヒトの僧帽筋は肩甲骨を安定させ,肩関節の運動や肩甲骨の運動に関与する重要な筋である.僧帽筋裏面を走行する静脈は,1)動脈に伴走しない静脈が存在し,2)静脈の合流点の数は動脈の分岐点の数の1.5倍に達し,3)さらに静脈弁が欠落している,という特徴がある.また上大静脈へ流れる経路とは別に側副路として外椎骨静脈叢へ流れる経路が存在することも特徴として挙げられる.下大静脈を通る静脈還流は,腹圧や胸腔内圧の影響を受けやすいため,静脈還流が滞った際には椎骨静脈叢が重要な役割を果たすと考えられる.僧帽筋の静脈の特徴的な形態は,椎骨静脈叢の流出路であると同時に側副路であるという体幹の静脈還流上の特殊な位置付けから説明できるものと考える.また,これらの特徴を踏まえたうえで,理学療法において肩こりに関与する僧帽筋への手技の見直しが必要であり,静脈還流を促す方向へのマッサージを行うことによって,肩こりの改善を図ることができるのではないかと考える.
著者
馬渡 徹 越野 督央 森下 清文 渡辺 敦 一宮 康乗 安倍 十三夫 村上 弦
出版者
特定非営利活動法人日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 = The journal of the Japanese Association for Chest Surgery (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.14, no.5, pp.591-601, 2000-07-15
参考文献数
17
被引用文献数
2

しばしば認められる異常分葉肺の血管・気管支を詳細に観察し, 肺切除に有用と思われる知見を得た.対象は正常解剖体の肺右202体, 左211体から見出した右35体 (17 .3%) および左27体 (12.8%) の異常分葉肺である.頻度の高い異常裂は, 右下葉上部にほぼ水平に走行する右副後葉型 (右PPL型: 25体)と, 左上葉の前方縦隔側から後上方に走行する左上前型 (LUAF型: 22体) の2型であった.右PPL型の異常裂がS<SUP>6</SUP>の下縁に, またLUAF型の異常裂が上大区と舌区の境界に一致するのは, それぞれ約90%, 60%だった.右PPL型では一般肺に比してB<SUP>7</SUP>とB<SUP>8</SUP>, B<SUP>*</SUP>との共同幹形成が多く, A<SUP>6</SUP>は1本で分岐しやすく, V<SUP>6</SUP>は2本で還流するものが多かった.また, 上葉とS<SUP>6</SUP>の間に異常血管を高頻度に認めた.LUAF型では一般肺に比して舌区動脈が葉間より一本で分岐するものが多く, 舌区静脈ではV<SUP>5</SUP>が下肺静脈に注ぐものを多く認めた.異常分葉肺の肺切除では, 上記のような一般肺と異なる所見を考慮し, 周到な気管支と血管の観察, 処置を要する.
著者
吉尾 雅春 村上 弦 西村 由香 佐藤 香織里 乗安 整而
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0826, 2006 (Released:2006-04-29)

【目的】座位で骨盤の傾斜角度を変えて,屍体の大腰筋腱を他動的に牽引して股関節を屈曲する際の張力を調べることによって,座位における大腰筋の機能について検討した。【方法】ホルマリン固定した屍体10体で,明らかな骨変性のない17股関節,男性10股関節,女性7股関節を対象とした。第11,12胸椎間で体幹を切断し,脊椎,骨盤を半切,膝関節で離断,大腰筋腱,股関節の関節包,各靱帯のみを残し,骨格から他の組織を除去して実験標本を作製した。背臥位で両側の上前腸骨棘と恥骨結節とを結ぶ面が実験台と水平になるように,実験台に骨盤をクランプで固定した。実験台は股関節部分で角度を任意に調節できるようにし,床面と水平になるように設置した。骨盤側の台を座位方向に起こして,骨盤長軸と大腿骨とで成す股関節屈曲角度を0度,15度,30度,45度,60度,75度,90度に設定した。それぞれの角度で大腰筋腱を起始部の方向から徒手的に牽引して,股関節が屈曲し始めたときの張力を測定した。張力の測定にはロードセル(共和電業,LU-20-KSB34D)を用い,センサーインターフェイスボード(共和電業, PCD-100A-1A)を通してパーソナルコンピュータで解析して求めた。大腿骨の重量や長さなどの個体因子を排除するために,股関節屈曲角度0度での張力を1として,張力の相対値を求めて検討した。牽引時の主観的抵抗感も検討因子に加えた。統計学的検討はt検定により,有意水準を5%未満とした。【結果】各角度での張力の相対値は0度:1.00,15度:1.05±0.08,30度:1.04±0.11,45度:1.07±0.12,60度:1.25±0.11,75度:1.44±0.15,90度:1.82±0.29であった。15度と30度との間で差が認められなかった以外は,0度から45度まで有意に張力は微増,60度,75度で著明に増加,90度で張力は激増し,60度以上での張力はすべての角度との間で有意差がみられた。牽引時の主観的抵抗感は60度以上で強く,75度でかなり強さを増し,90度では股関節屈曲が困難なほど極めて強い抵抗があった。【考察】第40回大会で骨盤を固定した健常成人の他動的股関節屈曲角度が約70度であることを報告した。主観的抵抗感も加味すると,通常の生体座位における自動的股関節屈曲に75度,90度で得られた張力を求めるとは考えにくい。座位で大腰筋を用いて股関節を自動屈曲するためには骨盤後傾位が効率的で,骨盤前傾位では股関節を屈曲することが困難になる。逆の視点で考えれば,骨盤後傾位で体幹を伸展した座位姿勢を保持するためには下肢が挙上しないようにハムストリングなどの作用が求められるが,前傾位では下肢は挙上しにくいために大腰筋の作用によって体幹伸展保持が保障されるという,60度を境にした役割の切り替えがなされる筋機能を有していると考えられた。
著者
村上 弦 Tatsuo SATO Tohru TAKIGUHI
出版者
International Society of Histology and Cytology
雑誌
Archives of Histology and Cytology (ISSN:09149465)
巻号頁・発行日
vol.53, no.Supplement, pp.219-235, 1990 (Released:2011-10-26)
参考文献数
14
被引用文献数
18 22

This article aims to clarify the topographical relationships of the bronchomediastinal collecting lymph vessels to other structures, in particular the great vessels, the trachea, the esophagus and the mediastinal pleura. Minute dissection was performed on eight cadavers with special reference to the converging collecting lymph vessels which form the bronchomediastinal trunks.On the right side, the trunks were consistently observed on both the right brachiocephalic vein and the subserous surface of the mediastinal pleura (anterior and posterior mediastinal trunks). The pathway from the right recurrent chain nodes ran laterally behind the carotid sheath and led either into the deep cervical nodes situated on the scalenus anterior or directly into the right venous angle.On the left side, the trunks showed varying courses. The nodes from which the trunks arose were constant, and classifiable into three groups: the uppermost paratracheal nodes near the recurrent chain nodes, the anterior mediastinal nodes (the left phrenic nodes) surrounding the phrenic nerve in front of and inferior to the aortic arch (the origin of the superior mediastinal trunk), and the left tracheobronchial nodes (the origin of the inferior mediastinal trunk).The large transverse superficial communicating vessel between the right and left sides was usually found in front of the trachea above the aortic arch; it was often connected to the nodes of the brachiocephalic angle. Deep communications were also found in front of the carina and behind the trachea.These findings allow the collecting vessels from the thoracic viscera to be divided into two pathways on each side: the anterior and posterior mediastinal trunks on the right side, and the superior and inferior mediastinal trunks on the left side. In addition to the four trunks, the superficial communicating vessel between the right and left sides is also drained from the superior mediastinum. The internal mammary lymph chain, which often emptied directly into the venous angle or into the deep cervical nodes, occasionally joined with the right anterior mediastinal trunk or the left superior mediastinal trunk.
著者
吉尾 雅春 西村 由香 村上 弦 乗安 整而
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.A0922, 2004

【目的】 MRI等を用いて股関節屈曲角度の計測結果がいくつか報告されているが,いずれも骨盤の固定に問題を残している。そこで新鮮凍結遺体を用いて,骨盤を機械的に固定した状態で股関節の屈曲角度を求め,制限要因などについて検討したので報告する。<BR>【方法】 札幌医科大学および韓国カトリック大学に献体された平均年齢74.1歳(45~89歳)の新鮮凍結遺体男性11体女性5体21股関節を解凍して用いた。変形性股関節症や骨折の既往を視認できたものは対象から外した。遺体から骨盤と大腿を切離し,股関節関節包以外の軟部組織をすべて除去した。上前腸骨棘と恥骨結節とを結ぶ線が固定台と水平になるように台上に骨盤を載せ,クランプを用いて固定した。まず股関節内旋外旋・内転外転中間位(中間位)で検者Aが大腿骨を持って制限があるまで股関節を屈曲させ,検者Bがそのときの最大角度を測定した。さらにそこから股関節を最大外転したとき(外転位)の最大屈曲角度を求めた。屈曲角度は骨盤長軸を基本軸に,大転子と大腿骨外側上顆とを結ぶ線を移動軸にして,Smith & Nephew Rolyan社製ゴニオメーターを用いて1度単位で計測した。最大外転角度は矢状面に対する大腿骨のなす角度とした。角度計測後,股関節関節包を前方から切開して股関節を解放し,屈曲時に何が制限要素になっているか肉眼的に観察した。その後,股関節を離断し,骨盤と大腿骨の形態計測を行い,股関節屈曲角度との関係を調べた。統計学的有意水準は5%とした。<BR>【結果】 股関節中間位における最大屈曲角度は93.0±3.6度であった。外転位の最大屈曲角度は115.4±9.2度で,最大外転角度は23.6±4.7度であった。年齢と中間位での最大屈曲角度との関係はなかった。中間位と外転位での最大屈曲角度は正の相関(r=0.668)を示した。関節包前面を切開して中間位で最大屈曲したとき,大腿骨の転子間線から約1cm骨頭側の頸前面が関節唇に衝突し,それ以上の屈曲はできなかった。前捻角は15.4±5.6度で中間位での最大屈曲角度と正の相関(r=0.521)がみられた。頸体角は124.1±5.0度で,最大屈曲角度との相関はみられなかった。大腿骨頭の直径は476.3±27.7mmで最大屈曲角度との相関はなかった。大腿骨転子間線中央から骨頭先端までの距離は679.2±49.9mmで,最大屈曲角度と負の相関(r=-0.461)がみられた。<BR>【考察】 骨盤を機械的に固定したときの股関節中間位における屈曲角度は平均93度で,外転位では115度であった。その制限因子は骨性のものであり,前捻角と大腿骨転子間線中央から骨頭先端までの長さが影響を与えていた。生体では大殿筋等の拮抗筋や股関節前面の軟部組織が制限要因となり,屈曲角度はさらに小さくなる可能性がある。臨床的に参考値としている120~130度のうち,30~40度は骨盤の傾きによることが明らかとなった。
著者
高崎 博司 村木 孝行 宮坂 智哉 韓 萌 宮本 重範 青木 光広 内山 英一 村上 弦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.C0330, 2005

【目的】テニス肘に対する理学療法、またラケットスポーツの障害予防として手関節伸展筋群のストレッチが行われている。手関節伸展筋群のストレッチに関して、諸家により様々な方法が紹介されている。しかしながら、実験的にどの肢位が最も伸張されるのかは検討されていなかった。本研究の目的は、肘関節に起始する手関節伸筋群に対しどの肢位が最も効果的に筋肉を伸張しうるかを新鮮凍結遺体右上肢を用いて定量的に検討することである。<BR>【対象】実験標本は、胸郭・上肢付の新鮮凍結遺体右上肢5肢とした。<BR>【方法】実験は、新鮮凍結遺体の肩甲骨をジグに固定し、右上肢を他動的に動かして行った。測定は、前腕中間位・肘45度屈曲位・手関節中間位・指伸展位(以後基本肢位と呼ぶ)から、肘関節45度屈曲位・最大伸展位の2パターン、前腕は中間位と最大回内位の2パターン、手関節は中間位から最大屈曲位・最大屈曲尺屈位・最大橈屈位の3パターンの合計12肢位で行った。これらの肢位における各筋の伸張率は、線維方向に沿い筋の中央部に設置したLEVEX社製パルスコーダーを用いて測定した。測定値は基本肢位からの伸張率で表した。測定筋は長橈側手根伸筋(以後ECRL)・短橈側手根伸筋(以後ECRB)・尺側手根伸筋(以後ECU)・総指伸筋(以後EDC)の4筋とした。<BR>【結果】筋の伸張率が最大となる肢位はECRL とECRBで肘関節伸展・前腕回内・手関節屈曲尺屈位であり、平均22.7%と18.7%であった。ECUは肘関節45度屈曲・前腕中間・手関節橈屈位で平均3.52%、EDCは肘関節45度屈曲・前腕回内・手関節橈屈位で平均7.93%であった。ECRLは前腕回外よりも回内位で伸張され、肘関節伸展位でさらに伸張され、手関節が屈曲尺屈位で最大の伸張率を示した。ECRBは肘関節伸展・前腕回内位で伸張率が高く、手関節は屈曲位と屈曲尺屈位の差は無かった。EDCとECUは各肢位での差は少ないが、ECUは手関節橈屈位で伸びる傾向があり、EDCは肘関節伸展位、前腕回内位、手関節橈屈位で伸張率が大きい傾向があった。<BR>【考察】ECRL・ECRBは肘関節伸展・前腕回内・手関節屈曲尺屈で大きく伸張した。これは、肘関節屈伸の回転中心が両者の後方に位置し、また両者が前腕回旋軸の橈側に位置する身体運動学的所見と一致した。肢位の違いによるEDCの伸張率の差が少ない理由は、EDCが肘関節回転中心、前腕回旋機能軸に沿って走行していること、指関節の可動性が加味されたためと考えられる。ECUの伸張率は他の前腕伸筋と比較して明らかに小さく、ECUは手関節の運動よりはむしろ安定化に寄与する筋であると考えられた。<BR>【結論】肘関節伸展・前腕回内位でのストレッチ肢位が効率よく手関節伸展筋群をストレッチできることが示唆された。
著者
渡辺 健一 土肥 二三夫 冨田 寛 竹本 律子 村上 弦
出版者
耳鼻咽喉科臨床学会
雑誌
耳鼻咽喉科臨床 補冊 (ISSN:09121870)
巻号頁・発行日
vol.1995, no.Supplement78, pp.53-62, 1995-04-30 (Released:2012-11-27)
参考文献数
38
被引用文献数
2

The topographical anatomy of the chorda tympani nerve (CTn) was investigated macroscopically in 45 ears of Japanese adult cadavers, aged 38-88 yr, with special reference to its topographical relationship to critical structures encountered in otorhinolaryngological practice such as the auditory tube and Wharton's duct. Fifteen cases of the “separated type” of CTn running independently along the posterior margin of the lingual nerve, which were noted in our previous study, were included among the 45 specimens. Major findings considered relevant to clinical practice are described below.1. The course of the CTn, passing inferiorly and medially in the petrotympanic fissure, was classified into 2 types: that traveling immediately anterior to and parallel with the auditory tube, and the becoming progressively more distant (inferior and anterior) to the auditory tube.2. Immediately after emerging from the petrotympanic fissure, the CTn cons istently communicated with the sympathetic plexus around the middle meningeal artery, and often issued twigs reaching the otic ganglion area.3. In cases where the CT n was trapped by tendinous tissue around the lateral pterygoid muscle (17.8%), the nerve merged into the lingual nerve from the medial or anterior aspect, and not from the usual posterior aspect, at the level of the mandibular notch.4. The lingual nerve sometimes (20.0%) showed a strongl y curved sigmoid course behind the mandibular ramus. Several buccal branches innervating the oral lining, without containing the CTn element, were issued at the anterior projecting protion of the sigmoid course.5. At the base of the oral cavity, the major CTn element traveled al ong the superior margin of the lingual nerve, therefore the CTn element was located away from the submandibular ganglion.6. A thick communicating branch on both sides of the lingual nerve was rarely observ ed under the mucous lining or in the mucous layers at the tip of the tongue. These findings suggest that morphological variations of the CTn should be considered during surgical procedures and for understanding the nature of related clinical symptoms.
著者
村上 弦 秦 史壯 佐藤 利夫 田口 圭介
出版者
札幌医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

1 腹腔神経叢周辺のリンパ管(平成12〜13年度)通常ホルマリン固定人体標本を用いて,1)腹腔神経叢と腸リンパ本幹の位置関係,および2)膵頭後部リンパ節(No.13)及び総肝動脈リンパ節(No.8)から大動脈リンパ節(No.16)へ注ぐリンパ管の経路,について検討を行った。また,新鮮胎児の胸腹部内臓の準連続切片を作成し,腹腔神経叢周囲のリンパ管及びリンパ節の局在を検討した。これらの結果から,膵頭十二指腸を外科的に左腹側へ授動する手技(コッヘル授動術)の視野において,腹腔神経叢より浅いこの領域の所属リンパ系の大部分を郭清できる可能性が示唆された。しかし,主流ではないものの腹腔神経叢と横隔膜脚の間を通るリンパ経路は存在しており,その経路の中継点であるNo.16a2の術中生検には大きな意義があると考えられた。2 子宮基靱帯内部を通る自律神経(平成14年度)15体の女性人体骨盤標本(65〜86歳)を用いて,子宮基靱帯内部を通る自律神経の走行を検討した。その結果,1)基靱帯は骨盤内臓神経を含んでいないこと,2)基靱帯の底部及び背側縁には明瞭な靱帯構造が存在すること,3)骨盤神経叢は基靱帯の血管成分からは分離していること,が明らかになった。この結果から,自律神経温存広汎子宮全摘出術において子宮傍組織の拡大切除を施行しうる可能性が示唆された。