著者
中村 振一郎
出版者
株式会社三菱化学科学技術研究センター
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

理論計算が最大限に効果を発揮すれば実測では得難がたい展開が可能である。本研究は理論およびシミュレーション計算科学を活用し、実験との融合によってもたらされる知見を獲得し、過去、全く予想されなかったジアリールエテンの極限性能の発見につながる解析結果を提供することを目的として、フォトクロミック化合物の用途開発を目的として開始した。メモリー素子など既に試された用途でなく、隠れた特性を引き出すのは基礎研究であり計算科学である。最も大きな成果は、三重項を経てフォトクロミック反応が起こるという仮説を計算によって得られたポテンシャル面が検証したことである。系間交差を可能にする要因として、これまでに知られていた重原子でなく、蛍光色素にリンクしたベンゼン環の回転によってスピン自由度の交換が可能であることが示唆された。さらに穐田教授(同領域内の実験研究者)らが合成したFe, Ru錯体についても、三重項が関与して反応が進行していることを、おなじく非経験的分子軌道計算によって裏付けつつある。スピン-軌道相互作用、ポテンシャル面の詳細など、さらに幾つかの点の詰めが終ればこの結果から、磁性に深く関与した応用用途を提案できるであろう。現在執筆中である。次に来る成果は、宮坂らが観測している量子ビートQBの解析である。励起状態の半古典ダイナミクス計算によって、確かにS1励起状態がビートを与えるように振動していることが計算から明らかになった。置換基依存性、開閉反応の量子収率との関係を考察して執筆開始予定である。最後に、松下教授(同じく同僚域)のPt系が示すフォトクロミック反応のメカニズムについても解析を始めた。この課題はこの領域ならではの難問である。おそらく、これまでの既存のパターンの反応機構とは全く違うメカニズムが予想される。
著者
畠山 允 緒方 浩二 中村 振一郎
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.223-229, 2018-10-31 (Released:2019-10-31)
参考文献数
27

植物とシアノバクテリアの酸素発生中心について筆者らの考究と理論計算の結果を紹介する.特に酸素発生と水分解は光誘起電荷分離の結果として生じるという観点から,正電荷の担体たる正孔がプロトンに変換される事実を焦点にして酸素発生中心を議論する.酸素発生中心を形作る原子軌道や内外の水素結合ネットワークが如何にして電荷を整流するか,その滲み出しの詳細理解に迫る試みの一端として筆者らの古典分子動力学計算と量子化学計算により得られた骨子を述べる.