著者
中村 昭之
出版者
駒澤大学
雑誌
駒沢大学文学部研究紀要 (ISSN:04523636)
巻号頁・発行日
no.31, pp.26-48, 1973-03

本論文は,共感性について,主としてその研究方法を中心に,概観することを目的としたものである。精神分析や,患者中心療法で使用される共感性の概念は,他者を正確に理解するという知的過程,他者の内的状態に対する感受性や,それをあたかも自分のことのように感ずるという感情的過程,理解し感得したものを他者に伝達する過程といった3つの複雑な過程を同時に含む,曖昧なものであった。その後の,実験社会心理学的研究は,その,複雑で曖昧な過程の2,3に,焦点を当て,曖昧さを払底し,ある過程を浮彫してくれた。予測的共感性の研究は,質問紙やインベントリーによる,他者の反応の正確な理解という,共感性の知的過程に重点を置く研究であるが,初期の研究で,他者の反応の正確な予測の障害であると考えられた自他評価の類似性(投影)が,その後の研究ではむしろ,共感性の本質的な過程として取上げられ研究されている。これと対照的に,電気生理学的指標による,共感性の実験的研究では,他者の内的状態に対する感受性とか,それをあたかも自分のことのように感ずるといった,感情的過程に焦点を置いていて,たとえば"構え"といった態度的変数を統制することで,このような過程が,捕捉され得る事を明らかにしている。その他の研究法として,Q技法によるもの,TATによるもの,自叙伝によるもの,等を取上げた。前二者は,役割理論を基礎としたものであり,後者は,実験者の自己露呈と共感性の関連を問題にした研究である。そのいずれもが,未解決の問題を残してはいるが,しかし,共感性という,微妙で,捕捉し難い現象への一つのアプローチの仕方を,示唆するものといえる。
著者
中村 昭之
出版者
駒澤大学
雑誌
駒澤大學文學部研究紀要 (ISSN:04523636)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.A20-A30, 1974-03

本論文は,特別養護老人ホーム入所中の老人を対象として,彼等の日常生活活動の実態と,それらの活動に影響を与える要因を分析したものである。それらの結果を要約すると以下のとおりである。(1)特別養護老人ホームの老人は,A.D.L.では,特に,歩行,行動範囲,入浴,着,脱衣,整とんなどで,困難なものが多い。(2)A.D.L.中,基本的機能である,視機能,聴機能,会話機能,歩行機能についてみると,これらのうち,視機能,聴機能,会話機能は,やや悪いと評価されるものが多いが,これらと比較して,歩行機能は,最も劣っていて,これが,特別養護老人ホームの老人の特徴であるように思われる。(3)心理的能力と態度では,活動意欲の減退しているものが,非常に多い。(4)A.D.L.得点も,心理的能力と態度の得点も,年齢と共に上昇傾向を示し,A.D.L.では,60〜69歳代と,70〜74歳代の間の得点上昇は急激である。(5)心理的能力や態度得点は,80歳以上では分散が大で,能力や態度の高低,良否の差が,顕著になる。(6)脳神経系障害群と,その他の疾患群の人員構成比は,約3:1で,圧倒的に前者が多い。両群間には,A.D.L.の平均得点で,明確な差は認められないが,各項目についてみると,着脱衣,整とん,洗面などで,差がみられた。(7)因子分析によって,共通な因子を抽出してみると,第1因子,歩行と活動意欲の因子,第2因子,会話機能と社会的志向性減退の因子,第3因子,聴機能と学習能力減退の因子が見出された。よって,これらの因子が,特に,老人の日常生活活動に,深い影響を与えているものと考えられる。