著者
岩岡 中正 首藤 基澄 吉川 榮一 谷川 二郎 中村 直美 中山 將
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

本研究は、[I]人間社会基礎論研究と[II]比較地域論の二方向から、近代(化)の検証と今日的意義およびその普遍化可能性について考える。[I]の(1)の哲学・倫理学・美学部門では、近代の主観主義的人間観の射程の研究(中山)、個人主義概念の基礎的研究(岡部)、自由主義的人間観の限界と地球全体主義の提唱(篠崎)が、(2)の法哲学・政治学部門では、近代リベラリズムにおける自律概念の研究(中村)、脱近代パラダイムの視点からの、「普遍」としての「近代の研究(岩岡)、アレント研究を通しての、政治的アイデンティティの研究(伊藤)が行なわれた。[II]の(1)の「英米における近代化」では、16世紀の英語の語彙の近代化の研究(上利)、シェイクスピアの戯曲における英国近代化の萌芽の研究(谷川)、19世紀英国小説に見る労働者と近代化の影についての研究(大野)、アメリカ小説に見る、コマ-シャリズムという近代化の悪き側面についての研究(里見)、さらに(2)の「アジアにおける近代化」では、祭元培の人権意義の非西洋的由来に見る中国近代化の特殊性の研究(吉川)、夏目漱石と芥川龍之介における日本近代化の理念の比較研究(首藤)、国民国家的視点からの日本近代化の研究と近代化論の批判的考察(小松)が行なわれた。通算13回の研究発表会と11回の研究打ち合わせ会から、以下の視点を得た。つまり、[II]グループの研究から、今日、単線的進歩の近代化論は受け入れられず、西洋も含めて世界の諸地域が多様な近代化をとげてきており、したがって近代化の一義的普遍化は困難であること、しかし他方、[I]グループの研究が示すように、やはり現代社会には「近代」に共通の普遍的な成果と問題点およびその克服の試みがあるという認識に立って、地域的な多様な近代化における個別性と、真の近代がめざす「人間の善き生」という普遍性をどう止揚するかという視点の重要性を確認した。この視点から今後さらに近代についての研究を進めたい。