- 著者
-
中沢 敦夫
- 出版者
- 富山大学人文学部
- 雑誌
- 富山大学人文学部紀要 (ISSN:03865975)
- 巻号頁・発行日
- no.61, pp.233-268, 2014
本稿から始まる連載で翻訳と注釈を試みるのは,キエフ・ルーシ史研究のもっとも基本的な史料である『イパーチイ年代記』(Ипатьевская летопись) の,『原初年代記』(Повестьвременных лет) 以降の部分,記事の年代から言うと,6618(1110)年から6800(1292)年に相当する部分で,ほぼ12~13 世紀をカバーしている。『イパーチイ年代記』は中世ロシアのほとんどの年代記(летописи)がそうであるように,様々な時期に成立した個々の歴史的・年代誌的な記録が,特定の段階でまとめられて編集され,それがさらに何度かの再編集を経ることで成立した「年代記集成」(летописный свод)である。本連載の第1回目では,『キエフ年代記集成』の翻訳に入る前に,『原初年代記』と『キエフ年代記集成』をつなぐかたちになっている,『イパーチイ年代記』の,6618(1110)~ 6625(1117)年の記事の翻訳と注釈を行う。この部分は,『原初年代記』の主要諸写本の共通部分から離れ,『イパーチイ年代記』だけに認められる記事であり,なおかつ,のちの『キエフ年代記集成』の編集とは別個に行われたとされている部分である。研究史上は,『イパーチイ年代記』だけに見られる『原初年代記』の追加編集記事と考えられている。