- 著者
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中田 哲也
- 出版者
- Japanese Society for Food Science and Technology
- 雑誌
- 日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
- 巻号頁・発行日
- vol.56, no.5, pp.307-308, 2009-05-15
- 被引用文献数
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フード・マイレージとは,イギリスのNGOによるフードマイルズ運動(なるべく身近でとれた食料を消費することによって食料輸送に伴う環境負荷を低減させていこうという市民運動)の考え方を参考に,農林水産省農林水産政策研究所において開発された指標である.その計算方法は,食料の輸送量に輸送距離を掛け合わせ累積するという単純なもので,例えば10トンの食料を50km輸送する場合のフード・マイレージは10×50=500t・km(トン・キロメートル)となる.また,これに二酸化炭素排出係数(1tの貨物を1km輸送した場合に排出される二酸化炭素の量)を乗ずることにより,食料の輸送に伴う環境負荷の大きさを定量的に把握することが可能となる.<BR>農林水産政策研究所では,2001年に日本を含む主要国の輸入食料のフード・マイレージを初めて試算した.その後,2003年に計測方法を改善した上での計測結果によると,2001年におけるわが国の食料輸入総量は約5800万トンで,これに輸送距離を乗じ累積した輸入食料のフード・マイレージの総量は約9千億t・kmとなる(図1).これは,韓国・アメリカの約3倍,イギリス・ドイツの約5倍,フランスの約9倍と際立って大きい.品目別にみると,食生活の変化により輸入が急増した飼料穀物(とうもろこし等)や油糧種子(大豆,菜種等)が大きな部分を占めていることが分かる.<BR>そして,このフード・マイレージに輸送手段毎の二酸化炭素排出係数を乗ずると,輸入食料がわが国の港に到着するまでに排出される二酸化炭素の量は約17百万トンと試算され,これは,国内における食料輸送(輸入品の国内輸送分を含む.)に伴う排出量の約2倍に相当する.<BR>地球環境にかける負荷が小さな食生活を送るためには,なるべく近くでとれた食料を消費すること,つまり「地産地消」が重要である.近年,多くの地域で地産地消の取組が盛んとなっている.これらは新鮮で安心感のある食品の入手,現金収入の確保など消費者,生産者双方のニーズを反映したものであるが,フード・マイレージの考え方を応用すると,輸送に伴う環境負荷を低減させるという面でも有意義と言える.<BR>例えば同じ献立でも,伝統野菜など地元産食材を使った場合の食材の輸送に伴う二酸化炭素排出量は,市場で国産食材を調達した場合と比べ約17分の1,市場で輸入食材も含めて調達した場合と比べ約47分の1に縮小されるとの試算もある.<BR>ただし,輸送に伴う環境負荷は輸送手段による差が大きいこと(例えば鉄道はトラックの約10分の1)そもそもフード・マイレージは輸送段階のみに着目した指標であることに留意が必要である.このことから,フード・マイレージは食料の環境負荷を示す指標としてはカーボン・フットプリントに比べ限界があり,慎重に取り扱う必要があるといえる.ただ,食材の使用量と産地(輸送距離)さえ判れば誰でも簡単に計算でき,かつ,なるべく身近な場所でとれたものをといった実践にも結びつけやすいことから,自分の身近な食生活が地球環境問題と関わっていることに気づくツールとしては有効であり,さらに旬産旬消,なるべく食べ残しはしないといった食行動につながっていくことが期待される.