著者
中西 孝平
出版者
パーソナルファイナンス学会
雑誌
パーソナルファイナンス研究 (ISSN:21899258)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.29-46, 2016-12-31 (Released:2017-08-10)
参考文献数
14

障害者雇用は近年着実に進展しているが、障害者雇用が進められる政策的背景には、就労を通じて障害者の稼得能力を向上させ、その所得を保障しようとする考えがある。しかし、障害者全体に占める雇用者の割合は1割に過ぎず、企業に就労した障害者の勤続年数は短い。それゆえ、障害者の就労を通じた所得保障は達成できていないと言える。 そこで、本稿は、障害者が周囲の支援を受けながらも自らの生活リズムに合わせて主体的に働き自ら所得を稼ぐことができる労働環境を、障害者自身が作り上げることをねらいとして「障害者の起業」を促進し、そのための資金調達の手段として頼母子講を活用することを提起している。 第2章では、障害者の所得を保障するためには、就労の継続性と安定性が保たれかつ就労移行が円滑に進められる必要があることを指摘したうえで、障害者の勤続年数はなぜ短いのか、そして、そのことから障害者の起業についてどのような示唆が得られるのかについて、平成15年度、平成20年度、平成25年度の三つの『障害者雇用実態調査結果』を基に分析している。 その中で、障害者が「前職を離職した理由」と障害者の「将来への不安」の二つから障害者雇用の継続性と安定性が確保できていない理由を導き、障害者が周囲の支援を受けながらも自らの生活リズムに合わせて主体的に働き自ら所得を稼ぐことができる労働環境を、障害者自身が作り上げることをねらいとして、「障害者の起業」を提起している。 第2章では、日本政策金融公庫により実施された『2008年度新規開業実態調査(特別調査)』と『起業意識に関する調査』から「障害者の起業」への示唆を得たうえで、UNDP1ミャンマーによるマイクロファイナンスを参考として、障害者が起業する際の資金調達の手段として頼母子講を活用することを提起している。 その中で、障害者が起業する場合のリスクとして、第一に、生活保護を受けている障害者が多い中で、起業して収入を得れば生活保護費を削減されることにつながり、事業が軌道に乗るまでは不安定な生活を強いられること、第二に、障害者が事業を行う場合、職務の遂行と自身の体調やケア・スケジュールとの関係から制約を受けることを挙げている。 それゆえ、障害者が起業する場合、第一に、少額の開業費で身軽な経営形態を採用すること第二に、開業後の運転資金が柔軟な返済条件で融資されること、の二つが求められるとしたうえで、UNDPミャンマーによるSRG(Self-Reliance Group)活動を参考として、頼母子講を障害者が起業する際の資金調達の手段として活用する場合、掛け金の払込時期を頼母子講の参加者が相談して変更することができるなど、頼母子講をめぐるルールの硬直性を克服する仕組みをつくることができれば、障害者が自身の生活リズムに合わせてビジネスを行うことができるとしている。
著者
中西 孝平
出版者
鹿児島国際大学附置地域総合研究所
雑誌
地域総合研究 (ISSN:09142355)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.61-69, 2017-09-30