- 著者
-
丸岡 稔典
- 出版者
- 福祉社会学会
- 雑誌
- 福祉社会学研究 (ISSN:13493337)
- 巻号頁・発行日
- vol.13, pp.106-131, 2016-05-31 (Released:2019-06-20)
- 参考文献数
- 33
- 被引用文献数
-
2
障害者の自立生活の理念は,自己決定権の行使と地域生活を重要な構成要素とするが,自己決定と比べて地域についての議論の蓄積は十分とは言えない.本研究では1970 年代から80 年代の世田谷における障害者運動の生成と展開の過程を文献分析により把握し,運動の中で構想された地域像を明らかし,自立生活の理念と地域の人間関係の相互作用を考察する. 結果,世田谷の障害者運動は,当初物理的障壁の除去を通して障害者の地域への参加を目指した.しかし,その過程で介助を家族に依存しているため障害者の行動や生活に制約があること,及び障害者の運動と一般市民の間に壁があることを認識した.その課題を解決するため,1)家族以外の他人よる介助を受けながらアパート暮らしをしつつ,介助の社会的労働化を求める自立生活運動と,2)障害者と地域住民が対等な立場で参加し,障害者への理解の促進を目指す,まちづくり運動が展開された.二つの運動では,単に親元や施設以外の場所ではなく,住民と障害者が出会い,関係が形成される空間として,さらに障害者と住民の自発的な参加や学習により,介助を必要とする障害者が他人の介助を受けて生活し,参加することが可能な空間として,新たな地域像が構想された.しかし,この理念としての地域は介助問題を中心として,多数の障害者の自立生活の生活課題へ対応する資源としては限界があり,そのために制度を媒介とした組織が必要とされることなった.