著者
丹保 信人 三根 幸彌 小野 健太 青山 多佳子
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.CbPI1290, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】シンスプリントは下腿の代表的なスポーツ障害であり、一般的に運動に伴う下腿遠位内側部の疼痛と圧痛が主訴とされる。理学療法においては足部への介入が中心となることが多く、足底板を使用した介入の報告も多くなされている。今回、股関節・体幹機能に着目した理学療法が奏効したシンスプリント症例2例を経験した。シンスプリントに対する理学療法の一つの視点として有用ではないかと考えられたため以下に報告する。【方法】1.対象対象はシンスプリントと診断された17歳女性(症例A)と16歳男性(症例B)の2例。2例ともに患側は右であった。競技種目は症例Aはバスケットボール、症例Bは野球。理学療法開始前、症例Aは約2ヶ月間、症例Bは約1ヵ月間、他院にて外用薬を処方され経過観察されていた。2.理学療法評価項目股関節・体幹機能評価として股関節周囲筋筋長検査、股関節周囲筋筋力評価(Manual Muscle Testing:MMT)、フロントランジ、胸骨下角の4項目を実施した。また、疼痛の状態をNumerical Rating Scale(NRS)を用いて評価し、疼痛の経過を記録した。前述の股関節・体幹機能評価より得られた問題点に対して運動療法プログラムを立案し、伝達した。3.その他服薬、外用薬の使用はしなかった。装具や足底板についても同様に使用しなかった。【説明と同意】本人に対して本研究の趣旨を説明し、書面にて同意を得た.また、本研究を進めるにあたり竹田綜合病院倫理委員会の承認を得た。【結果】1.初期理学療法評価症例A:理学療法開始時は疼痛によりランニングが困難であり(NRS5)、歩行時にも疼痛が自覚されていた(NRS1)。下腿遠位内側部に圧痛と腫脹を認めた。股関節周囲筋筋長検査は患側大腿筋膜張筋が陽性。MMTは患側腸腰筋3、中殿筋後部線維が2+。患側フロントランジでは患側下肢にknee in-toe outが観察され、患側への骨盤回旋も伴った。胸骨下角に非対称性は観察されなかった。症例B:理学療法開始時は疼痛によりダッシュが困難であった(NRS4)。下腿遠位内側部に圧痛を認めた。股関節周囲筋筋長検査は患側大腿筋膜張筋が陽性。MMTは患側腸腰筋、中殿筋後部線維が2+。患側フロントランジでは症例Aと同様に患側下肢のknee in-toe outと患側への骨盤回旋が認められた。胸骨下角は患側に狭小化が認められた。2.理学療法介入伝達した運動療法内容は硬化筋ストレッチ、中殿筋後部線維筋力増強運動、股関節・体幹筋協調運動(コアエクササイズ)であった。各運動療法の方法や負荷は来院時の評価結果や疼痛の状態に合わせて適宜変更した。理学療法介入中は、運動や日常生活上で患部に疼痛が出現する動作を、本人と相談の上可能な限り制限した。症例Aは2週に1回で計3回、症例Bは週1回で計4回の外来理学療法をそれぞれ実施した。 3.最終評価結果 症例A:下腿遠位内側部の疼痛は消失し部活動にも完全復帰した。大腿筋膜張筋筋長検査は陰性化した。患側腸腰筋、中殿筋後部線維のMMTは4となった。患側フロントランジでのknee in-toe outはわずかに残存したが患側への骨盤回旋は消失した。症例B:下腿遠位内側部の疼痛は消失し部活動にも完全復帰した。大腿筋膜張筋筋長検査は陰性化した。患側腸腰筋、中殿筋後部線維のMMTは4となった。患側フロントランジでのknee in-toe out、患側への骨盤回旋はともに消失した。【考察】シンスプリント2例に対し、股関節・体幹筋の硬化、筋長の変化とそれに伴う弱化に着目し理学療法を行った。大腿筋膜張筋の硬さと、拮抗する中殿筋後部線維の弱化により、疼痛出現近似動作であるフロントランジでは股関節内旋が優位となっていた。また患側への骨盤回旋を伴うことから体幹筋による骨盤コントロールが不十分であることも疑われた。これらのことから、股関節・体幹における複合的な機能障害の結果としてknee in-toe outが生じやすくなっていると考えた。理学療法評価から得られた問題点に対しては、股関節・体幹を協調する機能的複合体として捉え、運動療法プログラムを立案、伝達するように考慮した。症状の消失に至った理由としては、運動療法を通して股関節・体幹機能に改善が得られたことにより、knee in-toe outを防止する効率の良い下行性運動連鎖が獲得されたためではないかと考えた。【理学療法学研究としての意義】シンスプリントに対する理学療法においては、足部からの上行性運動連鎖だけではなく、股関節・体幹からの下行性運動連鎖の影響を考慮することの重要性が示唆された。