著者
丹治 保典 宮永 一彦
出版者
東京工業大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

単一個体から採取した卵塊からウジ→蛹→成虫へと変態させ、それぞれの過程に於ける個体の腸内細菌叢を培養法及びPCR-DGGE法により解析した。6種の抗生物質を含むLB寒天培地上に、ウジ、蛹、成虫それぞれ12個体から分離した腸内細菌懸濁液を塗布し、抗生物質を含まないLB培地上と各抗生物質を含む培地上に形成されたコロニー数を比較することで、薬剤耐性化率を求めた。各変態の過程において高い割合で抗生物質耐性能を示した菌体が分離された。特にAmpicillin,Cefpodoxime,Kanamycinに対し耐性を示した菌体の割合が高く、ウジと蛹から分離した菌体叢の耐性化率はほぼ等しかった。一方、成虫から分離した腸内細菌叢は、使用した6種の抗生物質すべてに対し70%以上の高い耐性化率を示した。ウジと蛹から単離した菌体の染色体DNAを分離し、16SrRNAをコードするDNA領域のシーケンスを行ったところ、多くがProteus mirabilisと100%の相同性を示した。P.mirabilisは広く自然界に存在し、ヒトの腸管常在菌であり病院感染としての尿路感染を起因し、腎盂腎炎をもたらすことで知られている。P.mirabilisの各抗生物質に対する最小生育阻止濃度を測定したところ、極めて高い値を示した。また、多剤耐性化も進んでいた。一方、成虫腸内細菌叢からはS.saprobhyticus, S.cohniiなどのバクテリアに加え、C.tropicalisやI.orientalisなどの真菌類が単離された。人間にとって最も身近な存在であるイエバイから高頻度で多剤耐性菌が検出されたことから、これら多剤耐性菌がイエバエを介して広く伝播される可能性が強く示唆された。
著者
堀 克敏 海野 肇 丹治 保典
出版者
東京工業大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1999

遺伝子がファージを介して形質転換又は形質導入される機構と、その頻度を左右する環境因子を解明するために、P1ファージによる大腸菌JA300株へのテトラサイクリン耐性マーカーの形質導入系をモデルに実験を行った。その結果、形質導入頻度はファージ/大腸菌の比(MOI)と共に増加し、MOI=1.6で最大値を示した。また、形質導入頻度は感染時間が10分まで増加し、その後ほぼ一定となった。形質導入の律速段階は未感染ファージと大腸菌の衝突過程であると考え、衝突頻度は両者の濃度に比例し、1菌体に感染するファージの数はポアソン分布によるとしたモデルを構築した。このモデルにより、感染時間およびMOIの変化による形質導入頻度を予想することができた。上記モデル実験と並行して、難分解性物質の分解に係わる遺伝子の伝播を研究するため、トルエン資化菌であるPeudomonas putida F1とP.putida mt-2に関するファージのスクリーニングを行った。トルエンで汚染された土壌を用いた集積培養の後に、Fl株に対して感染能力を有するファージを一種、得ることができた。ホストレンジを調べたところ、単離したファージはFl株だけでなくmt-2株に対しても感染能を有するが、P. putida PpY101株や他のトルエン資化菌に対しては感染しないことがわかった。次に培養環境の一つである基質の相違がファージの感染効率に与える影響を調べた。LB培地と気相トルエンを与えた無機塩培地でF1株を増殖させ、OD_<600>の値がそれぞれ0.7になった時点で、MOIが1と10になるようにファージ液を添加した。その結果、LB培地ではファージの感染による濁度の減少が見られたのに対し、トルエンを炭素源とする無機塩培地ではMOI=10の条件でも溶菌現象が見られなかった。