- 著者
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堀 克敏
海野 肇
丹治 保典
- 出版者
- 東京工業大学
- 雑誌
- 特定領域研究(A)
- 巻号頁・発行日
- 1999
遺伝子がファージを介して形質転換又は形質導入される機構と、その頻度を左右する環境因子を解明するために、P1ファージによる大腸菌JA300株へのテトラサイクリン耐性マーカーの形質導入系をモデルに実験を行った。その結果、形質導入頻度はファージ/大腸菌の比(MOI)と共に増加し、MOI=1.6で最大値を示した。また、形質導入頻度は感染時間が10分まで増加し、その後ほぼ一定となった。形質導入の律速段階は未感染ファージと大腸菌の衝突過程であると考え、衝突頻度は両者の濃度に比例し、1菌体に感染するファージの数はポアソン分布によるとしたモデルを構築した。このモデルにより、感染時間およびMOIの変化による形質導入頻度を予想することができた。上記モデル実験と並行して、難分解性物質の分解に係わる遺伝子の伝播を研究するため、トルエン資化菌であるPeudomonas putida F1とP.putida mt-2に関するファージのスクリーニングを行った。トルエンで汚染された土壌を用いた集積培養の後に、Fl株に対して感染能力を有するファージを一種、得ることができた。ホストレンジを調べたところ、単離したファージはFl株だけでなくmt-2株に対しても感染能を有するが、P. putida PpY101株や他のトルエン資化菌に対しては感染しないことがわかった。次に培養環境の一つである基質の相違がファージの感染効率に与える影響を調べた。LB培地と気相トルエンを与えた無機塩培地でF1株を増殖させ、OD_<600>の値がそれぞれ0.7になった時点で、MOIが1と10になるようにファージ液を添加した。その結果、LB培地ではファージの感染による濁度の減少が見られたのに対し、トルエンを炭素源とする無機塩培地ではMOI=10の条件でも溶菌現象が見られなかった。