著者
久保 愛恵 田原 敬 勝二 博亮 原島 恒夫
出版者
障害科学学会
雑誌
障害科学研究 (ISSN:18815812)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.137-147, 2020-03-31 (Released:2020-09-30)
参考文献数
44

近年、聴力検査は正常であるが聴取困難 (聴覚情報処理障害:APD) を示す幼児の存在が報告されているが、その実態は明らかになっていない。そこで本稿では、まずAPDの定義を整理し、APD症状を示す幼児の実態をまとめた。APDはその病態が明らかにされておらず、APD症状を示す幼児の実態も事例ごとに背景要因の分析を丁寧に行い、検討を積み重ねる必要がある。次に、APD症状の中から雑音下聴取困難に着目し、幼児における雑音下聴取能力や評価方法、背景要因について整理した。幼児は成人よりも雑音下聴取困難を抱えやすいという結果は共通して得られており、幼児の中には雑音下聴取の成績が特に低い幼児が存在することも指摘され始めている。その背景には注意等の認知的要因が考えられるが、実際に雑音下聴取困難を示す幼児を対象とした検討はなされていない。今後は雑音下聴取困難を示す幼児を抽出し、注意機能や音韻意識等の観点より背景要因の検討が求められる。
著者
田原 敬 久保 愛恵 勝二 博亮
出版者
一般社団法人 日本臨床神経生理学会
雑誌
臨床神経生理学 (ISSN:13457101)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.179-183, 2021-08-01 (Released:2021-08-01)
参考文献数
33

本稿では主に注意機能の視点から雑音下聴取の神経生理学的機序について論じ, 雑音下のような聴取困難な状況で高まる心的な労力であるListening effortについて概説した。脳波や脳機能イメージングを用いた報告からは, 雑音下においてより効率的に音声を聴取するために注意機能が重要な役割を担っていることが確認された。あわせて, Listening effortについても, 注意機能や実行機能等の脳内ネットワークが関与していることが確認された。また, Listening effortを評価するための生理指標として瞳孔径や脳波が活用されていたが, それらの指標間には十分な一貫性がなく, その発生機序も含めさらなる検討が求められていた。以上より, 雑音下聴取やListening effortを扱う際には, 注意機能に代表されるような聴覚機能以外の視点からのアプローチも重要になると示唆された。