著者
勝二 博亮
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.19-30, 2021 (Released:2021-09-14)
参考文献数
20

【要旨】 本研究では通常の学級に在籍する漢字書字に困難を示す小学校4年生(9歳)の男児を対象として、子どもの認知特性と書字エラーの特徴から支援方法を考案し、その効果を検証した。青木・勝二(2008)6)を参考に、子どもの書字エラーを分類し、全体的な形態イメージが既に保持されているが、細部に誤りがみられる漢字については「正字選択の確認課題」による指導を、それ以外の漢字には「組合せパズル課題」による指導を実施したところ、いずれも学習漢字の70%以上を書字できるようになった。さらに、子どもが自主的に学習できるように、それぞれの課題について自ら教材を作成して課題に取り組むような「自主的学習に向けた支援」を実施したところ、教材をあらかじめ用意しなくても、学習漢字の70%以上を書字できるようになった。このことから、自主的学習に向けた支援でも高い支援効果が得られることが示唆された。
著者
久保 愛恵 田原 敬 勝二 博亮 原島 恒夫
出版者
障害科学学会
雑誌
障害科学研究 (ISSN:18815812)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.137-147, 2020-03-31 (Released:2020-09-30)
参考文献数
44

近年、聴力検査は正常であるが聴取困難 (聴覚情報処理障害:APD) を示す幼児の存在が報告されているが、その実態は明らかになっていない。そこで本稿では、まずAPDの定義を整理し、APD症状を示す幼児の実態をまとめた。APDはその病態が明らかにされておらず、APD症状を示す幼児の実態も事例ごとに背景要因の分析を丁寧に行い、検討を積み重ねる必要がある。次に、APD症状の中から雑音下聴取困難に着目し、幼児における雑音下聴取能力や評価方法、背景要因について整理した。幼児は成人よりも雑音下聴取困難を抱えやすいという結果は共通して得られており、幼児の中には雑音下聴取の成績が特に低い幼児が存在することも指摘され始めている。その背景には注意等の認知的要因が考えられるが、実際に雑音下聴取困難を示す幼児を対象とした検討はなされていない。今後は雑音下聴取困難を示す幼児を抽出し、注意機能や音韻意識等の観点より背景要因の検討が求められる。
著者
石田 修 勝二 博亮 飯村 大智 宮本 昌子
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
pp.2314si, (Released:2023-12-01)
参考文献数
25

発話の流暢性障害である吃音者は,遅延聴覚フィードバック(DAF)下では非流暢性発話が増加する場合や減少する場合があり,その個人差が生じる要因は明らかにされていない。本研究では,吃音者10名を対象にDAF下の音読と触覚・音声刺激への単純反応を求める二重課題の実験パラダイムを用い,NIRSを用いた脳血流計測の結果からDAF下の音読で発話が非流暢/流暢になる機序を検討した。その結果,DAF下で非流暢性が増加した非流暢性増加群8名と,減少した非流暢性減少群2名に分かれたが,群のサンプルサイズに偏りがみられたため,脳血流は非流暢性増加群を対象に分析した。非流暢性増加群は,触覚条件において能動的な注意の配分に関与する右上前頭回近傍と右上頭頂回近傍が活性化していた。そのため,触覚モダリティの標的に能動的に注意を配分し,逸脱刺激である遅延音声を無視しながら音読している可能性が推察された。これらの特異的な活動がDAF下における非流暢性発話の減少と関係しているものと考えられる。
著者
田原 敬 久保 愛恵 勝二 博亮
出版者
一般社団法人 日本臨床神経生理学会
雑誌
臨床神経生理学 (ISSN:13457101)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.179-183, 2021-08-01 (Released:2021-08-01)
参考文献数
33

本稿では主に注意機能の視点から雑音下聴取の神経生理学的機序について論じ, 雑音下のような聴取困難な状況で高まる心的な労力であるListening effortについて概説した。脳波や脳機能イメージングを用いた報告からは, 雑音下においてより効率的に音声を聴取するために注意機能が重要な役割を担っていることが確認された。あわせて, Listening effortについても, 注意機能や実行機能等の脳内ネットワークが関与していることが確認された。また, Listening effortを評価するための生理指標として瞳孔径や脳波が活用されていたが, それらの指標間には十分な一貫性がなく, その発生機序も含めさらなる検討が求められていた。以上より, 雑音下聴取やListening effortを扱う際には, 注意機能に代表されるような聴覚機能以外の視点からのアプローチも重要になると示唆された。
著者
長山 芳子 勝二 博亮
出版者
一般社団法人 日本LD学会
雑誌
LD研究 (ISSN:13465716)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.466-477, 2020 (Released:2020-12-03)
参考文献数
21

対人関係形成が困難で通常の学級(以下,通常学級)で孤立していたADHDの小学5年生女児を対象として,通常学級と特別支援学級の相互的アプローチによる対人関係支援を実施した。通常学級では主に構成的グループエンカウンターによる居場所づくりを,特別支援学級ではソーシャルスキルトレーニングによる対人関係スキル形成を試みた。さらに,通常学級では対象児との具体的な関わり方の手本を示すとともに,特別支援学級を開放した友達づくりの支援も行った。学級診断アセスメントである「楽しい学校生活を送るためのアンケート(Q-U)」を継続的に実施して支援効果を検証した結果,学級満足度尺度による評価から,通常学級内での居心地感が徐々に高まることが明らかとなった。さらに,学校生活意欲尺度では,互いに信頼できる友達関係形成により,学級の雰囲気や友達関係の評価が高まるだけでなく,学習意欲の向上にも寄与するなど,さまざまな波及効果を生むことが示唆された。
著者
青木 真純 勝二 博亮
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.193-200, 2008-09-30 (Released:2017-07-28)
被引用文献数
1 1

通常の学級に在籍する聴覚優位で書字運動に困難がみられた小学校3年生男児に対して漢字書字支援を実施した。はじめに学習漢字を対象児の既知文字に構成要素として分解させた後、音声言語リハーサルと部分再生による支援を実施した。音声言語リハーサルでは分解した構成要素を音声言語で復唱させた。部分再生では音声言語リハーサルに加え1〜2画程度の部分的な書字による補完を求めた。その結果、いずれの支援でも半数以上の漢字を書字できるようになった。しかし、書字エラーをみると、音声言語リハーサルでは構成要素自体の書字に誤りが多かったのに対し、部分再生では、構成要素の書字は可能であったが、それらの配置や結合部でのエラーが多かった。したがって、対象児に負担がかからない程度の補完的な書字活動を取り入れることで、音声言語リハーサルでは改善されなかった漢字細部の誤表記を修正できることが示唆された。