著者
岡野 由実 原島 恒夫 堅田 明義
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.195-203, 2009 (Released:2009-09-18)
参考文献数
15
被引用文献数
4 2

本研究では, 一側性難聴者の自己開示の実態, 日常生活において対人関係の中でどのような感情を抱いているのかを明らかにするために, ソーシャルネットワーキングサービスを利用した調査を実施し, 135名の一側性難聴者から回答を得た。自己開示の実態については, 自己開示の有用性について理解していても, 開示しにくい背景があるということが分かった。その理由として, ネガティブな感情や, 周囲の理解不足があると考えられる。聞こえに関する問題だけでなく, 対人関係の中から生じる心理的問題も抱えている現状が示唆された。また, 自由記述より, 一側性難聴者同士が悩みや不安を共有し合うピア・カウンセリングの有用性が示唆された。聞こえの問題から二次的に生じる問題, 特に対人関係の中から生じる心理的問題やその実態など, 一側性難聴への理解を深め, 支援を行っていく必要があると考えられる。
著者
久保 愛恵 田原 敬 勝二 博亮 原島 恒夫
出版者
障害科学学会
雑誌
障害科学研究 (ISSN:18815812)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.137-147, 2020-03-31 (Released:2020-09-30)
参考文献数
44

近年、聴力検査は正常であるが聴取困難 (聴覚情報処理障害:APD) を示す幼児の存在が報告されているが、その実態は明らかになっていない。そこで本稿では、まずAPDの定義を整理し、APD症状を示す幼児の実態をまとめた。APDはその病態が明らかにされておらず、APD症状を示す幼児の実態も事例ごとに背景要因の分析を丁寧に行い、検討を積み重ねる必要がある。次に、APD症状の中から雑音下聴取困難に着目し、幼児における雑音下聴取能力や評価方法、背景要因について整理した。幼児は成人よりも雑音下聴取困難を抱えやすいという結果は共通して得られており、幼児の中には雑音下聴取の成績が特に低い幼児が存在することも指摘され始めている。その背景には注意等の認知的要因が考えられるが、実際に雑音下聴取困難を示す幼児を対象とした検討はなされていない。今後は雑音下聴取困難を示す幼児を抽出し、注意機能や音韻意識等の観点より背景要因の検討が求められる。
著者
大金 さや香 城間 将江 小渕 千絵 榎本 千江子 加藤 秀敏 加我 君孝 原島 恒夫
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.65, no.6, pp.574-583, 2022-12-28 (Released:2023-01-18)
参考文献数
21

要旨: 人工内耳装用の後天性聴覚障害成人 (以下成人) 28名と先天性聴覚障害小児 (以下小児) 34名に対し, 旋律に関連する知覚能力と旋律の識別方略の特徴を検討する目的で, ピッチ識別, 3音のピッチパターン識別, 旋律識別の課題を実施した。その結果, 小児ではピッチ識別, ピッチパターン識別は有意に良好で, 旋律識別は両群共に困難であった。旋律の誤答分析から, 成人では同リズム内での誤答が多くリズムによる識別方略を有効に使用していたと推察されたが, 小児では一定の誤りの傾向は見られず, 課題の旋律がピッチやリズムを主体とした旋律としては学習されていないことが推測された。ピッチ識別は, 重回帰分析により先天性小児期 CI か後天性成人期 CI かの違い, 及び語音弁別能が関与している可能性が示唆された。今後, 旋律知覚のメカニズムの特徴を明らかにし, それぞれの特徴に配慮した音楽の聴取方法や楽しみ方など検証する必要があると考えられた。
著者
小渕 千絵 原島 恒夫 田中 慶太 坂本 圭 小林 優子
出版者
国際医療福祉大学学会
雑誌
国際医療福祉大学学会誌 = Journal of the International University of Health and Welfare (ISSN:21863652)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.29-36, 2020-02-29

標準化された聴覚検査では,静寂下での単音節や単語の聴取検査が多く,雑音下での検査など聴取に負荷のかかる検査は少なく,日常生活での聞き取りの困難度を検査によって明らかにはしにくい.そこで本研究では,聴覚障害児者や聴覚情報処理障害が疑われる児者の抱える聞き取り困難を評価する臨床的な検査として,雑音下の単語聴取検査や両耳での分離聴検査,交互聴検査などの 7 つの聴覚情報処理検査を作成し,学齢児 60 名の適用について検討した.この結果,今回作成した検査については,就学後の学齢児で実施できない児はおらず,適用可能であった.検査ごとに比較すると,早口音声聴取検査および雑音下の単語聴取検査においてのみ,学年間で統計的に有意な差がみられたが,それ以外の検査では学年間差はなく,学齢児では同程度の得点を示した.今後は,幼児や成人例への適用,および聞き取り困難を抱える方への応用についても検討していく必要性が考えられた.
著者
岡野 由実 原島 恒夫 堅田 明義
出版者
Japan Audiological Society
雑誌
Audiology Japan (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.195-203, 2009-08-31
被引用文献数
3 2 4

本研究では, 一側性難聴者の自己開示の実態, 日常生活において対人関係の中でどのような感情を抱いているのかを明らかにするために, ソーシャルネットワーキングサービスを利用した調査を実施し, 135名の一側性難聴者から回答を得た。自己開示の実態については, 自己開示の有用性について理解していても, 開示しにくい背景があるということが分かった。その理由として, ネガティブな感情や, 周囲の理解不足があると考えられる。聞こえに関する問題だけでなく, 対人関係の中から生じる心理的問題も抱えている現状が示唆された。また, 自由記述より, 一側性難聴者同士が悩みや不安を共有し合うピア・カウンセリングの有用性が示唆された。聞こえの問題から二次的に生じる問題, 特に対人関係の中から生じる心理的問題やその実態など, 一側性難聴への理解を深め, 支援を行っていく必要があると考えられる。
著者
井口 亜希子 原島 恒夫 田原 敬
出版者
障害科学学会
雑誌
障害科学研究 (ISSN:18815812)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.137-148, 2019-03-31 (Released:2019-10-01)
参考文献数
56

指文字は、表記文字に対応した手型であり、それにより単語を視覚的に綴ることができる。本稿では、聴覚障害幼児の初期言語獲得における指文字の役割について検討する基礎的な資料とするため、指文字の性質と特徴を整理した上で、聴覚障害児の指文字の獲得過程、語彙獲得における指文字の役割について、欧米圏と我が国の研究を概観した。米国を中心に乳幼児期の指文字獲得過程や、親や教員による語彙獲得や文字移行を意図した指文字の使用方略に関する検討が進められている。我が国においてはそれらの研究が進んでおらず、日本の指文字の特徴を踏まえた指文字獲得過程や、日本語の語彙獲得における指文字の使用方略とその効果について検討する必要がある。特に語彙獲得における効果が期待される指文字と複数のモダリティ(手話単語、文字、音声言語等)を組み合わせた提示方略について、聴覚障害幼児の言語獲得等と関連させた研究が求められる。
著者
岡野 由実 廣田 栄子 原島 恒夫 北 義子
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.91-99, 2013 (Released:2013-06-14)
参考文献数
12

成人一側性難聴者4名を対象に, 読話の活用状況と聴取困難場面での対処法と日常生活における聴こえの困難度について面接法と自己評価法により検討した。併せて, 読話検査を用いて有用性を検討し聴力正常者20例の結果と比較した。その結果, 一側性難聴症例では, 聴取困難な状況で読話の活用などの対処が必要であるものの, 対処法の習得には個人差が大きいことが示された。また, 読話能力については聴力正常者と差は少なく, とくに読話低下例では, 日常生活で読話の活用は乏しく, 聴取困難場面に消極的な対処をしており, 会話場面で困難度が高い傾向を示した。そこで, 一側性難聴者に対して, 聴取困難な場面での対処法について評価し, 個別状況に応じて, 指導・助言等のリハビリテーション支援を行う必要性があることを指摘した。