著者
久保田 多余子
出版者
東北森林科学会
雑誌
東北森林科学会誌 (ISSN:13421336)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.9-14, 2017 (Released:2018-04-05)
参考文献数
14
被引用文献数
1

青森県太平洋沿岸の海岸林では,東北地方太平洋沖地震の津波を受けて,凹地にあるクロマツが塩害により枯死し,凸地にあるクロマツが生存した。これは,津波によって海岸林内に侵入した海水の排水が凹地で悪く凸地で良いためと推測されるが,海岸林内の微地形の違いにより排水状態がどのように異なるのかを実測した事例はほとんどない。そこで,林内に起伏がある青森県三沢市淋代の海岸林内において,凹地と凸地で地下水位と土壌水分量(深度-1.0 mまで)を測定した。この結果,地下水位の約0.6 m上方の土層までは土壌水分量が高くなり排水が悪くなることが確認された。このため,凹地では地下水位が相対的に高い(地表から近い)ために湿潤になりやすいと考えられた。しかしながら,凹地で塩害被害が大きかったのは,クロマツの根が凸地よりも長時間海水に浸水したためというよりは,地下水位が高いことに起因した間接的な原因によると考えられた。
著者
久保田 多余子 香川 聡 児玉 直美
出版者
独立行政法人森林総合研究所
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

東日本大震災の津波を受け、震災直後健全に見えた森林においても、2011年夏以降、塩害による衰弱や枯死が見られた。本研究は津波被害を受けつつ生存したクロマツ林において、年輪セルロースの炭素安定同位体比(δ13C)の季節変化を調べ、塩害によってマツが枯死に至る過程を明らかにした。震災前の年輪セルロースのδ13Cは早材で小さく晩材で高くなる季節変化を示していた。震災後は早材形成初期からδ13Cの差(被害木-無被害木)が有意に高く、早材初期で最高値を取り、晩材で減少した。これは津波直後の春に水ストレスを受けてδ13Cが上がり、その後海水が排水され、水ストレスが下がってδ13Cが下がったと考えられた。