著者
久保田 多余子 香川 聡 児玉 直美
出版者
独立行政法人森林総合研究所
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

東日本大震災の津波を受け、震災直後健全に見えた森林においても、2011年夏以降、塩害による衰弱や枯死が見られた。本研究は津波被害を受けつつ生存したクロマツ林において、年輪セルロースの炭素安定同位体比(δ13C)の季節変化を調べ、塩害によってマツが枯死に至る過程を明らかにした。震災前の年輪セルロースのδ13Cは早材で小さく晩材で高くなる季節変化を示していた。震災後は早材形成初期からδ13Cの差(被害木-無被害木)が有意に高く、早材初期で最高値を取り、晩材で減少した。これは津波直後の春に水ストレスを受けてδ13Cが上がり、その後海水が排水され、水ストレスが下がってδ13Cが下がったと考えられた。
著者
児玉 直美
出版者
独立行政法人農業環境技術研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本研究は有用木本植物であるユーカリを対象として、その蒸散効率の制限要因の環境応答を調べることであった。具体的には、蒸散効率の重要な要因である膜のCO_2と水の拡散を制限しているアクアポリンという膜たんぱく質に注目して、アクアポリンの蓄積量を遺伝的に改良した植物を用いて実験を行った。本年度は、1)蒸散効率の制限要因である気孔コンダクタンス(gs)と葉肉コンダクタンス(gm)を、秒~分単位の高時間分解能で連続的に同時測定できるように実験システムのセットアップを行った。これによってgsやgmの短期的な環境応答の測定が可能になった。2)アクアポリンの蓄積量の変化によって、短期的な光環境の変化に対する、蒸散効率の制限要因であるgsとgmの応答速度の違いを調べた。1)の実験セットアップは中赤外分光レーザーCO_2同位体計というシステムを導入し、他機関の研究者と協力して行った。これによって、葉肉コンダクタンスと気孔コンダクタンスの同時測定を、秒単位で行えるシステムを確立した。このシステムによって環境の変化に素早く反応して変化するタンパク質や酵素の影響をとらえることが可能になった。また、2)の実験によってアクアポリンの蓄積量の違いによって、光変化に対する応答時間が異なることを示すことに成功した。これらの結果は植物の生産性を高めることや生態系内の水や炭素の循環に関しても重要な知見を与えると考えられる。