- 著者
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久米 正志
清水 雄二
南條 元
佐藤 英樹
佐藤 友彦
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement
- 巻号頁・発行日
- vol.2009, pp.E4P2269, 2010
【目的】厚岸町は北海道の東南部に位置し、総面積は739平方kmで、主な産業は水産業と酪農を中心とした農業である。厚岸町役場保健介護課健康づくり係では、一般高齢者を対象とした介護予防事業の一環として平成13年度から地域出前講座の転倒予防教室「ころばない講座」を始めた。高齢期における具体的な転倒予防のため、地区の自治会・老人クラブ等の開催要請に応える形で実施している。<BR>本研究では町内の各地域に明確な産業特性がある事から、ころばない講座受講者を居住地域毎に「漁村部」「農村部」「市街部」の3地域に分類し、産業特性の異なる各地域間にどのような違いがあるかを比較検討した。<BR>【方法】対象はころばない講座を受講した65歳以上の厚岸町民1598名(男性279名:平均年齢77.1±4.6歳、女性1319名:平均年齢75.1±5.4歳)である。ころばない講座は、検査・検査の見方・日常でころばないための講話・家庭でできる簡単な転倒予防体操で構成されている。検査項目は全身状態の検査として、血圧・体重・体脂肪・BMI・握力、転倒骨折評価として10m全力歩行・最大一歩幅・下肢長・40cm踏み台昇降である。転倒骨折評価は東京厚生年金病院転倒予防教室で行われている健脚度評価を利用した。<BR>本研究では各検査項目の中から転倒骨折評価に焦点を当て、10m全力歩行・最大一歩率(最大一歩幅/下肢長)・40cm踏み台昇降について、健脚度評価基準の転倒カットオフ値を基に3地域を比較検討した。統計処理には1要因の分散分析を用いて、有意水準を5%とした。<BR>【説明と同意】ころばない講座受講者に検査の目的を説明し、本人並びに厚岸町の健康づくりに活用する事の同意を得た。<BR>【結果】10m全力歩行<BR>男性:農村部5.22±1.18秒>市街部5.32±0.90秒>漁村部5.71±1.16秒<BR>女性:農村部5.95±1.70秒>市街部6.09±1.62秒>漁村部6.32±1.64秒<BR> 転倒カットオフ値は6.41秒であり、男女共にカットオフ値を下回る地域はなかった。男女共に各地域間で有意差が認められた。<BR>最大一歩率 <BR>男性:農村部1.32±0.16>漁村部1.31±0.17>市街部1.29±0.12<BR>女性:市街部1.32±0.19>農村部1.30±0.15>漁村部1.26±0.18<BR> 転倒カットオフ値は1.17であり、カットオフ値を下回る地域はなかった。男性は各地域間に有意差が認められなかったが、女性では有意差が認められた。<BR>40cm踏み台昇降(可能の割合を表示)<BR>男性:漁村部67%>市街部65%>農村部62%<BR>女性:農村部41%>市街部・漁村部34%<BR> 男女共に各地域間で有意差が認められた。 <BR>【考察】10m全力歩行・最大一歩率は、3地域男女共に転倒カットオフ値を上回った。3項目の転倒骨折評価を男女地域別に比較検討すると、最大一歩率の男性以外は各地域間に有意差が認められた。10m全力歩行での特徴は、同地域男女の序列が同じ事である。男女共に農村部が最も高く、市街部、漁村部と続く。共に肉体労働である農村部・漁村部で有意差が現れた事は印象的である。仕事の内容の相違や、酪農業は通年であるのに対し漁業は季節性である事も有意差の一因と考えられる。最大一歩率は男性では有意差が認められなかった。女性は有意差が認められ市街部、農村部、漁村部と続く。特に漁村部女性が低い値であった。40cm踏み台昇降は、漁村部では男性が最も高く女性が最も低い等、同地域男女の序列の相違が現れた。女性は農村部が特に高い割合であった。同地域男女の序列の相違は市街部で小さく漁村部・農村部で大きい事から、漁村部・農村部での男女の仕事内容の違いが影響している可能性が考えられる。漁業では主に男性が漁に出て船の乗り降り等で昇降動作を行うのに対し、女性の仕事は加工が主であるいう役割分担もみられる。<BR>各項目で各地域間に有意差が認められたが、それが現役世代の仕事内容からくるものか、引退後の活動歴が影響しているかを精査するためには今後更なる情報が必要である。本研究を基に、現役引退の度合い(家族経営が多いことから部分的な引退も考慮)・各業種における男女別の仕事量や内容の把握・引退年齢や引退後の運動・活動歴の情報も得ていきたい。そして本研究で明らかになった地域間の差や、同地域男女の序列の相違について、どのような因子が影響を与えているのかを明らかにし、各地域に合った予防的な健康づくりの方法を提案していく。<BR>【理学療法学研究としての意義】理学療法士が保健・福祉と共働・連携し町民の健康づくりを行っていく事の意義は大きく、本講座を通して町民が高齢期における健康づくりを主体的に行う町になるように働きかけていく事ができる。また、厚岸町独特の産業・地域特性に焦点を当て研究を行う事で、受講者のみではなく町全体、更には産業特性が同様な地域に結果を還元する事ができる。