著者
菊池 彰 河岡 明義 島崎 孝嘉 于 翔 海老沼 宏安 渡邉 和男
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.17-26, 2006-03-01
被引用文献数
9

地球規模での環境悪化や食糧問題を改善するための手段として,遺伝子組換え植物を効率的に利用する研究が進められている.本研究では,閉鎖系温室,特定網室,隔離ほ場と段階を追って有用遺伝子組換え植物を実際に育成し,さまざまな科学的知見に基づいて環境安全性評価を確立することを目的の1つとしている.適合溶質の産生に関わる土壌細菌Arthrobactor globformisのcodA遺伝子を導入した耐塩性ユーカリ(Eucalyptus camaldulensis Dehnh. codA 12-5B, codA 12-5C, codA 20-C)が塩ストレス培養条件下で選抜され,その導入形質の安定性と環境影響評価を閉鎖系温室・開放形温室にて実施した.各遺伝子組換え体の遺伝子発現は非耐塩ストレス環境下で18ヶ月間安定していることが明らかとなり,耐塩性も維持されていることが明らかとなった.一方,環境影響評価については,有害物質の生産を発芽アレロパシー試験・土壌微生物相の調査・液体クロマトグラフィー・ガスクロマトグラフィーのいずれの試験においても組換え体と非組換え体との間に有意な差が認められなかった.また,生長性・形態についても顕著な差異が認められず,組換え体と非組換え体との間の違いは耐塩・耐乾燥性以外には認められなかった.一方,非組換えユーカリの野外栽培の結果から,競合における優位性,食害等も認められなかった.また,本邦に交配可能な近縁野生種の自然分布はなく,近隣の栽培ユーカリに対する交雑も,既知の交雑性から極めて低いことが考えられた.以上の点から,本遺伝子組換えユーカリは耐塩性を除き,非組換えユーカリと相違点は認められず,隔離ほ場における栽培に際して,生物多様性影響が生じるおそれは無いと判断された.