著者
遠藤 さおり 松永 悦子 海老沼 宏安
出版者
JAPAN TECHNICAL ASSOCIATION OF THE PULP AND PAPER INDUSTRY
雑誌
紙パ技協誌 (ISSN:0022815X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.656-666, 1996-04-01 (Released:2009-11-16)
参考文献数
11

近年の産業の発達に伴い地球規模での様々な環境破壊が引き起こされ, 環境保全が社会全体での課題となってきている。そして, この問題は, 原材料の大半を森林に依存している紙パルプ産業においても, 根幹にかかわる重要な問題であり, 環境保全と産業の発達の調和が, 次世代への持続的な発展への重要な鍵となっている。様々な産業分野において, バイオテクノロジーを用いた技術が, 次世代における産業の発達を可能とする環境保全技術として注目を集めている。紙パルプ産業においても, 植林事業の推進に代表されるように, 環境保全と産業の発達の両面からの事業展開が繰り広げられている。しかし, 次世代において, 企業に対する環境保全の圧力はさらに増大すると推測され, 植林事業においても原材料としてだけではなく, 社会的にも付加価値の高い樹木の植林をおこなうことが必要となると考えられる。バイオテクノロジーの進歩により, 生物に新たな遺伝子を導入することにより, 生物に新たな能力を付加することが可能となってきている。そして, この技術を用い植林木の改良・開発をおこなうことにより, より社会的に付加価値の高い植林事業が可能となると考えられる。本報告では, バイオテクノロジーの中でも, 特に紙パルプ産業と関りの深い, 植物のバイオテクノロジーの環境問題への取り組みとして, 植物の汚染物質の浄化, 解毒に関した研究を紹介する。当研究室において遺伝子組換え技術を用い, 解毒能力を強化した環境ストレス耐性樹木の作成を行っている。遺伝子導入された樹木は, 大気汚染・除草剤などの環境ストレスに対し, 強い耐性を示すことが明らかとなっている。この結果も合わせて報告するとともに, 樹木における遺伝子導入技術の可能性と, 有用性に関し考察する。
著者
菊池 彰 河岡 明義 島崎 孝嘉 于 翔 海老沼 宏安 渡邉 和男
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.17-26, 2006-03-01
被引用文献数
9

地球規模での環境悪化や食糧問題を改善するための手段として,遺伝子組換え植物を効率的に利用する研究が進められている.本研究では,閉鎖系温室,特定網室,隔離ほ場と段階を追って有用遺伝子組換え植物を実際に育成し,さまざまな科学的知見に基づいて環境安全性評価を確立することを目的の1つとしている.適合溶質の産生に関わる土壌細菌Arthrobactor globformisのcodA遺伝子を導入した耐塩性ユーカリ(Eucalyptus camaldulensis Dehnh. codA 12-5B, codA 12-5C, codA 20-C)が塩ストレス培養条件下で選抜され,その導入形質の安定性と環境影響評価を閉鎖系温室・開放形温室にて実施した.各遺伝子組換え体の遺伝子発現は非耐塩ストレス環境下で18ヶ月間安定していることが明らかとなり,耐塩性も維持されていることが明らかとなった.一方,環境影響評価については,有害物質の生産を発芽アレロパシー試験・土壌微生物相の調査・液体クロマトグラフィー・ガスクロマトグラフィーのいずれの試験においても組換え体と非組換え体との間に有意な差が認められなかった.また,生長性・形態についても顕著な差異が認められず,組換え体と非組換え体との間の違いは耐塩・耐乾燥性以外には認められなかった.一方,非組換えユーカリの野外栽培の結果から,競合における優位性,食害等も認められなかった.また,本邦に交配可能な近縁野生種の自然分布はなく,近隣の栽培ユーカリに対する交雑も,既知の交雑性から極めて低いことが考えられた.以上の点から,本遺伝子組換えユーカリは耐塩性を除き,非組換えユーカリと相違点は認められず,隔離ほ場における栽培に際して,生物多様性影響が生じるおそれは無いと判断された.