著者
佐々木 武彦
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.15-21, 2009-03-01
参考文献数
25

水稲「愛国」は明治時代後半から昭和時代の初めまでの長期間、東北、北陸、関東の各地方をはじめ全国に広く普及した大品種である。「愛国」から純系淘汰、突然変異ならびに交配により生みだされた品種は数多く、それら子孫のなかには「銀坊主」、「陸羽132号」、「農林1号」、「農林8号」、「コシヒカリ」、「ササニシキ」など歴代の大品種が多数含まれる。さらに、1980年冷害の被害実態を糸口にして、「コシヒカリ」の穂ばらみ期耐冷性は最強級と分かり、その耐冷性を利用して耐冷性と良質性を両立させた「ひとめぼれ」の育種に成功したが、その耐冷性は「愛国」に由来し、「愛国」は日本の耐冷性品種への主要な遺伝子給源であったことが明らかにされた。筆者はこれら二つの説を改めて検証し、最近見つかった「米作改良試験」の報告書で「愛国」が宮城県内各町村で初めて作付けされた年次を調べ、上記二つの説との整合性を検討した。その結果、静岡県の「身上早生」由来説は整合性が認められたが、広島県の「赤出雲」由来説は整合性が認められず、誤りであると考えられたので以下に報告する。
著者
大越 昌子 胡 景杰 石川 隆二 藤村 達人
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.125-133, 2004 (Released:2004-09-18)
参考文献数
31
被引用文献数
4 10

古代に栽培されていたイネの品種や来歴を明らかにすることを目的として,遺伝的変異を比較的よく保有していると考えられる日本の在来イネ(Oryza sativa L.)73品種について,複数のマイクロサテライトマーカーを用いた多型解析による分類を試みた.基準品種として,中国より導入した陸稲4品種および形態的・生理的形質に基づいてIndicaおよびJaponicaに分類されているアジアの在来イネ8品種を用い,多型性の大きい8種(RM1, RM20A, RM20B, RM30, RM164, RM167, RM207, RM241)のマイクロサテライトマーカーを選んで分析した.その結果,日本の在来イネはIndicaおよびJaponicaに大別され,そのうち8品種がIndicaに,残り65品種がJaponicaに属していることが明らかになった.後者に属するものはさらに3つのサブグループ,すなわち陸稲グループ(J-A),陸稲・水稲混合グループ(J-B)および水稲グループ(J-C)に分類された.このうち,グループ(J-B)は陸稲グループ(J-B 1)と水稲グループ(J-B2)の2つのグループに分類され,前者は熱帯Japonica,後者は温帯Japonicaであることが示された.陸稲の「古早生」,「福坊主」および「関取」は,温帯Japonicaの品種と同じグループ(J-B 2)に属していた.これらは水稲と近縁であることから,水稲から転用された陸稲であったと考えられる.本研究に用いた8種のマイクロサテライトマーカー(RM1, RM20A, RM20B, RM30, RM164, RM167, RM207, RM241)は,イネ,特に日本の在来種の分類・識別に有効なマーカーとなりうると考える.
著者
武田 元吉
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.3, no.4, pp.269-274, 2001-12-01 (Released:2012-01-20)
参考文献数
13
著者
佐藤 宏之 鈴木 保宏 奥野 員敏 平野 博之 井辺 時雄
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 = Breeding research (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.13-19, 2001-03-01
参考文献数
20
被引用文献数
2 11

イネ (<I>Oryza sativa</I> L..) 品種コシヒカリの受精卵に, メチルニトロソウレア (MNU) 突然変異原処理を行って育成された品種ミルキークイーンの低アミロース性の遺伝子分析を行った. ミルキークイーンとその野生型であるコシヒカリを正逆交雑したF1種子のアミロース含量は両親の中間値を示したが, ミルキークイーン/コシヒカリ由来のF1種子よりも, コシヒカリ/ミルキークイーン由来F<SUB>1</SUB>種子の方が高いアミロース含量を示した. 従って, ミルキークイーンの低アミロース性を支配する遺伝子には量的効果があることが分かった. また, ミルキークイーン/コシヒカリ由来のF<SUB>2</SUB>集団のアミロース含量は, コシヒカリ型とミルキークイーン型が3: 1に分離し, さらにミルキークイーン/コシヒカリ//ミルキークイーン由来の戻し交雑集団のアミロース含量が, 野生型と低アミロース型が1: 1に分離したことから, ミルキークイーンの低アミロース性を支配する遺伝子は単因子劣性であると考えられた. 次に, イネのアミロース合成に関与する既知の遺伝子, <I>wx</I>並びに<I>du</I> 1, 2, 3, 4及び5との対立性を検定した結果, ミルキークイーンにおいて突然変異を生じた遺伝子は, <I>wx</I>の対立遺伝子であることが示唆された.
著者
久保 中央 金子 明雄 山本 和喜
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.45-54, 2015-06-01 (Released:2015-07-03)
参考文献数
43
被引用文献数
1 1

ハス(Genus Nelumbo)はアジア系のハス(N. nucifera)とアメリカ原産のキバナハス(N. lutea)に大別される.観賞用ハス品種は花蓮と呼ばれ,国内に約1000品種知られているが,それらの類縁関係はほとんど解明されていない.特に,京都府南部の巨椋池およびその干拓地から採取された巨椋池系品種は,来歴や品種間の類縁関係の多くが不明である.本研究では,巨椋池系品種94系統を含む国内の代表的花蓮品種173系統の類縁関係を,ハスSimple Sequence Repeat(SSR)マーカー25遺伝子座の遺伝的変異に基づいて解析した.前報で解析した47系統のデータを加えた合計220系統についてSSRの遺伝子型を基に近隣接合樹を作成した結果,供試系統は5つのグループ(I:キバナハス品種グループ,II:キバナハスとの種間雑種グループ,III:斑蓮を含むグループ,IV:古代蓮を多く含むグループ,V:その他のグループ)に分類された.巨椋池系品種はグループIII~Vに分布し,この品種群が遺伝的に多様な系統を含むことが示された.一方,巨椋池系品種どうしが一つのクラスターを形成する場合もあり,これらの品種は巨椋池にかつて自生していた遺伝的に近縁な集団に由来すると推察される.本研究のデータは,花蓮品種の類縁関係を整理する際の指標として,特に巨椋池系品種の花蓮品種全体における関係を示す有用な情報となり得る.
著者
中村 澄子 鈴木 啓太郎 伴 義之 西川 恒夫 徳永 國男 大坪 研一
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.79-87, 2006-09-01
参考文献数
37
被引用文献数
7 7

いもち病はイネの最も重要な病害である.近年,いもち病真性抵抗性遺伝子型を異にする複数の同質遺伝子系統を混合栽培するマルチラインの利用が試みられ,平成17年産から新潟県産コシヒカリは,「コシヒカリ新潟BL」に全面的に作付転換された.本研究では,「コシヒカリBL」と従来のコシヒカリを識別するために,RAPD法,およびSTS化RAPD法を用い,イネいもち病真性抵抗性遺伝子Pia,PiiおよびPita-2を識別するSTS化プライマー群を開発した.これらのマーカーの染色体上の座乗位置の特定ならびに同質遺伝子系統24品種,公表遺伝子型が明確な日本栽培イネ51品種を用いたPCR実験の結果から,開発したマーカーが確かに標的とするいもち病抵抗性遺伝子を識別することを確認した.また,複数のプライマーを併用することにより,1回のPCRで数種類のBLを識別する実用的なマルチプレックスPCR用プライマーミックスを開発した.本研究において開発したDNAマーカーを用いることにより,「コシヒカリ新潟BL」を他県産コシヒカリ,および日本栽培稲69品種と識別することが可能である.
著者
鐘ケ江 弘美 松下 景 林 武司 川島 秀一 後藤 明俊 竹崎 あかね 矢野 昌裕 菊井 玄一郎 米丸 淳一
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.115-123, 2022-12-01 (Released:2022-12-22)
参考文献数
30

作物の系譜情報は育種を行う上で必要不可欠であり,特に交配親の選定において極めて重要である.しかし,系譜情報の分析基盤や可視化ツールは少なく,育種家は範囲が限定された系譜図を使用せざるを得ない.本研究では,育種や作物データの解析に系譜情報を広く活用するため,系譜情報グラフデータベース「Pedigree Finder」(https://pedigree.db.naro.go.jp/)を構築した.系譜情報を整備するために語彙やデータフォーマットの統一を行うとともに,品種・系統の標準化されたIDを利用することにより,関連するゲノム情報および形質情報との紐づけを可能にした.系譜情報の整備にはデータモデルとしてリソース・ディスクリプション・フレームワーク(Resource Description Framework, RDF)を採用し,共通性と永続性を高めた上で,グラフデータベースを構築した.グラフデータベースの利用により,系譜情報をわかりやすく可視化し,セマンティック・ウエブ(Semantic Web)技術による外部データベースとの情報統合や高度な検索が可能である.本システムにより系譜情報を収集・可視化することで,系統の育成過程をたどり,遺伝的な近縁性を考慮した交配親の選定や系譜と特性との関係の把握など,品種育成や遺伝研究の意思決定における育種データの統合利用が可能になると期待される.
著者
坂本 知昭 片山(池上) 礼子
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
pp.19J01, (Released:2019-04-23)
被引用文献数
1 1

サツマイモ「兼六」は塊根にβ-カロテンを含む特徴がある良食味品種で,1930年代に石川県農事試験場で選抜された.苗条および塊根の形態的特徴が「安納いも」のそれらと酷似していたため,「安納いも」5品種・系統と「兼六」の比較を試みた.「兼六」,「安納3号」,「安納イモ4」,「安納紅」,「安納こがね」の成葉はいずれも波・歯状心臓形で,新梢頂葉にはアントシアニンが蓄積し紫色を呈していたが,「安納イモ1」の成葉は複欠刻深裂で頂葉は緑色だった.「兼六」,「安納3号」,「安納紅」の塊根皮色は紅であったのに対し「安納イモ4」と「安納こがね」は白であったが,これら5品種・系統の塊根にはβ-カロテンの蓄積が認められた.一方「安納イモ1」の塊根皮色は赤紫で条溝が多かったほか塊根にβ-カロテンは含まれていなかった.27の識別断片を用いたCleaved Amplified Polymorphic Sequence(CAPS)法によるDNA品種識別では「兼六」と「兼六」を交配親に作出された「泉13号」および「クリマサリ」さらにその後代品種「ベニアズマ」の識別はできたものの,「兼六」と「安納3号」,「安納イモ4」,「安納紅」,「安納こがね」の識別はできなかった.45の識別断片を用いたRandom Amplified Polymorphic DNA(RAPD)法によるDNA品種識別では「兼六」と「泉13号」,「クリマサリ」,「ベニアズマ」だけでなく「安納イモ4」および「安納こがね」の識別も可能となったが,「兼六」と「安納3号」,「安納紅」の識別はできなかった.以上の結果と「安納いも」が戦後の種子島で見出された在来系統であった経緯を考え合わせると,「安納いも」のルーツはかつて全国に普及していたとされる「兼六」ではないかと結論づけられた.
著者
舘山 元春 坂井 真 須藤 充
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.1-7, 2005 (Released:2005-03-12)
参考文献数
23
被引用文献数
12 9

複数の低アミロース性母本に由来する系統を供試し,イネの食味に大きく影響する胚乳アミロース含有率の登熟気温による変動を調査した.日本の寒冷地域で作付けされている,「ミルキークイーン」(wx-mq保有),「彩」(du(t)保有),および「スノーパール」の低アミロース性母本に由来する育成系統と,「山形84号」(wx-y保有),「探系2031」,対照としてうるち品種の「つがるロマン」(Wx-b保有)を供試した.人工気象室,ガラス温室および自然条件を組み合わせ,低,中,高温の3つの温度条件で登熟させた時の胚乳アミロース含有率を測定した.「つがるロマン」のアミロース含有率の変動幅は12~23%(高温区~低温区)であり,登熟気温変動1 °C当たりのアミロース含有率の変動幅(Δ AM/ °C)は0.8~1.1%であった.これに対し「ミルキークイーン」由来の系統,ならびに「山形84号」のアミロース含有率の変動は「つがるロマン」より小さかった.一方,「スノーパール」の母本で「ミルキークイーン」や「山形84号」とは異なる Wx座の突然変異による「74wx2N-1」に由来する系統のアミロース含有率の変動は「つがるロマン」より大きく, Δ AM/°Cは「つがるロマン」の1.4~1.9倍であった.「探系2031」のアミロース含有率は,「つがるロマン」と他の低アミロース系統の中間であり, Δ AM/°Cは「つがるロマン」とほぼ等しかった.「ミルキークイーン」由来の系統あるいは「山形84号」と,「74wx2N-1」に由来する系統間に見られるアミロース含有率の温度による変動幅の差は,その保有する低アミロース性遺伝子の違いによる可能性が示唆された.
著者
大澤 勝次
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.1, no.4, pp.249-255, 1999-12-01 (Released:2012-01-20)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1