- 著者
-
五十嵐 一枝
- 出版者
- NPO法人 日本自閉症スペクトラム支援協会 日本自閉症スペクトラム学会
- 雑誌
- 自閉症スペクトラム研究 (ISSN:13475932)
- 巻号頁・発行日
- vol.10, no.2, pp.5-12, 2012-10-20 (Released:2019-04-25)
- 参考文献数
- 9
幼児期から青年期に至るまで、発達障害児の治療教育を行う専門機関において治療的教育と親および本人の心理・教育面接ならびに心理検査を継続的に実施してきた。そして、長期観察を行った知的遅れのない発達障害児を対象として、発達障害児の知的能力の発達について4 事例について検討を加えた。幼児期から学童期あるいはそれ以上の年齢においても知能指数が発達的に変化し、遅れて正常域に入ってくることが示された。就学後に知能指数が上昇して正常域に入ってきた発達障害児全体の生育歴を検討すると、定頸の遅れがないこと、2 歳までに1 語を話すことが共通していた。さらに継続して実施したWISC- Ⅲの結果から、知的能力の発達的変化を示唆する指標として以下の特徴が示された。①:言語性、動作性、全検査いずれかの知能指数が85 以上(平均-1SD 以上)である。②①を満たさなくても群指数のいずれかが85 以上である。③:①②を満たさなくても下位検査のいずれかが評価点10以上である。すなわち、WISC- Ⅲに基づく発達障害児の知的能力の検討にあたっては、従来から指摘されてきた基本となる各IQ、群指数、各下位検査について、継年的な詳細な検討を行うことが重要であることが明らかになった。WISC- Ⅲの10 年以上の経過を検討すると、知的遅れのない広汎性発達障害、ADHD、LD などの発達障害児の知能指数は経年的に変化し、特に知的遅れのない広汎性発達障害 児の場合は10 歳以降に正常域に入ってくる例が少なくないことが示唆された。その影響要因として、問題の早期発見による個別およびグループの言語を中心とした早期治療的教育環境の継続的な提供と、通常学級における教科学習の効果が考えられた。