著者
五島 一美
出版者
早稲田大学
雑誌
早稲田教育評論 (ISSN:09145680)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.85-96, 2004-03-31

アメリカ合衆国で2002年に成立したNo Child Left Behindは,学習スタンダードを設定し,合衆国の全児童生徒が2014年までにそれを達成することを目標とする教育政策で,それを達成できない学校には厳しい行政上の措置がとられることになる。しかし,その達成度を測るのにはスタンダード基準のテストが用いられるが,それが,教育の質の低下を招くと懸念されている。さらに,財政の不足によりこの教育政策が実際に機能するのかどうかも疑問視されている。さらに,Regents Action Planの分析から,コア教科の強化だけでは,全児童生徒が一様に成績を上げるわけではないことが浮かび上がってくる。また,州の間でもその財源の豊かさにより国内差異が生まれることなど,様々な問題点がNo Child Left Behindには内在していることがわかる。一方で,学校の再人種分離化傾向など,もともと恵まれた教育環境にないマイノリティと貧困層の児童生徒の教育環境は近年,さらに悪化していっている。彼らにとって,No Child Left Behindは,この教育環境の差異化を是正する有効な手段となりうる。No Child Left Behindが様々な困難の中,効果的に機能するためには,彼らに対する支援に比重を置き,それに国民の理解を得ることが必要となるであろう。そうでなければ,No Child Left Behindは,逆に,教育の差異化を強化することになりかねない。