著者
横山 寿 西村 昭史 井上 美佐
出版者
水産海洋学会
雑誌
水産海洋研究 (ISSN:03889149)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.142-147, 2002-08-31
参考文献数
17
被引用文献数
11

現在、日本の海面魚類養殖業は自家汚染に伴う環境問題に直面しており、その解決策として漁場環境を的確に評価する手法や漁場の環境容量を推定する手法を開発することが求められてる。移動性の少ないマクロベントスは局所的な個々の場所の指標性に優れる。この特性を利用して、マクロベントスの生息状況に基づいた増養殖漁場における種々の環境基準が提案され、マクロベントスを生物指標とした魚類養殖場のモニタリング調査や環境評価が行われるようになってきた。魚類養殖場では全世界的な汚濁指標種である多毛類がしばしば優占的に出現する。また、宮城県下のギンザケ養殖場では多毛類や甲殻類が特異的に高密度で分布することが報告されている。しかし、これらの知見は1~数カ所の養殖場から得られたものがほとんどで、環境条件や養殖規模が異なる多くの試料に基づいて養殖活動がマクロベントス群集に及ぼす影響を総合的に解析した例は見当たらない。前報では、養殖規模や地形が異なる熊野灘沿岸の22カ所の養殖場から夏季のマクロベントスと水質・底質の試料を得て、マクロベントスの群集パラメータと養殖生産量、養殖場の物理的環境要素の指標とした内湾度指数EDおよび化学的諸環境要因との相互の関係を解析した。本報では、同漁場で行った冬季調査の結果を加え、マクロベントス群集の種組成に及ぼす内湾度指数と養殖活動の影響を解析し、群集型の判別により漁場環境を評価するとともに、持続的な生産を可能にする適正養殖量を推定することを試みた。