著者
井出 草平
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

研究目的は、40万人規模で日本に存在する「ひきこもり」という現象の原因理解とその支援・解決である。これまでの調査研究の中でひきこもり状態にある人にはいくつかのサブグループがあることを示してきた。中学・高校で陥ることり多い「拘束型」と、大学で陥ることの多い「開放型」があるとした。研究の1つとして大学でのひきこもりについて初めての量的調査を行った。大学の中学・高校の不登校既往はおおよそ7割が経験していない。これは、大学でひきこもり状態になっている者と中学・高校でひきこもり状態になっている者の質的な違いを示すデータだと考えている。また、この期間に厚生労働省でのひきこもり科研に参加し、新しい版のひきこもり対応ガイドラインづくりに関与してきた。現在までの研究結果を政策に反映することに成功した。家族とひきこもりの関係性について考察することを目標にし、経験者、支援者への調査を行った。この調査の結果、家族とひきこもりの関係性がより明らかになったと考えている。ひきこもりとは、社会的関係を持たないこと、家族以外の他者とコミュニケーションをしないことをいうが、ひきこもりの家族を調査した結果、本人がひきこもる以前に、家族がひきこもり状態にあることがわかった。加えて、そのような家族像は近代家族の報想像とされてきたことから、近代化とひきこもりの関係が示唆された。研究結果は牟田和恵編『家族を超える社会学』(新曜社)「ひきこもりと家族」にまとめた。
著者
井出 草平
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

本研究目的は、日本に40万人規模で存在するとされているひきこもり現象の原因理解を行い、逸脱現象への理論的貢献をすることである。ひきこもりが社会問題化されて10年あまり経つが、ひきこもりの規定要因を研究する研究は未だに不十分である。特にひきこもりを対象とした量的研究は少なく、大学生のひきこもりを対象とした井出・水田・谷口(2011)など限られていた。本研究はでは対象を拡大し、一般人口を対象とした調査を行った。量的研究が不足している現在では、インプリケーションのある結果を引き出すことができた。調査結果の概要を記載する。ひきこもりと収入・暮らし向きといった経済状況は長期化し、親が退職するといった家庭では起こるが若年では関係は優位差がなかった。親との関係や優等生であるといった親子間の問題も見られなかった。一方で、不登校をはじめ小学校や中学校といった早い段階から孤立をすること、友人を持たないことがひきこもりにつながっていることが判明した。ひきこもりと不登校の関連はよく知られたことだが、孤立は不登校には関連が見られず、ひきこもりにのみ効果を持っていた。また、いじめ体験はひきこもりと弱いながらも関連性が見られるが、不登校とは関連がなかった。一方で、成績不振は不登校との関連が見られたが、ひきこもりとの関連が見られなかった。ひきこもり現象は家庭よりも学校における逸脱現象と関連しており、中でも不登校との関連は強いがあることが判明した。しかし、その他の逸脱項目との間では不登校とひきこもりの間には差異が見られ、学校における逸脱と雑駁に捕らえるのではなく、一つ一つの現象と関連を明らかにする必要があることが判明した。逸脱論、特に学校に関連した逸脱現象を理論化する上での基礎的な資料の収集ができた。