- 著者
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井芹 浩文
- 出版者
- 崇城大学
- 雑誌
- 崇城大学紀要 = Bulletin of Sojo University (ISSN:21857903)
- 巻号頁・発行日
- vol.39, pp.1-9, 2014
明治憲法は全面改正されるまで56年間存続した。これに対し現行の日本国憲法は改正せずにすでに66年が経過した。これだけ長期に改正されなかったのはなぜか。その大きな理由の一つが、歴代の自民党首相が現実主義的なアプローチを取ったためではないかとの仮説を立てた。これを立証するため、吉田茂以来の歴代首相の憲法観を振り返ってみた。歴代首相はカテゴリーとしては「改憲派」「護憲派」「現実派」および自らの見解を示す機会のなかった「回避派」に分けることができよう。まず現実主義者のプロトタイプとして吉田を取り上げる。ただ吉田自身は自衛力を禁じた現行憲法には違和感を持ちつつ、さりとて急激な再軍備は国力が見合っていないというアンビバレントな悩みを抱えていた。続く鳩山一郎、岸信介は改憲を掲げたが挫折し、その後の高度成長期に政権を担ったい池田勇人、佐藤栄作らは改憲論から距離を置き、保守政権の現実主義は定着していく。この後のいわゆる「三角大福中」世代の最後に政権を担当した中曽根康弘はもともと改憲論を唱導していたが、政権に就くや改憲を否定し、現実主義に身をおいた。改憲論者である中曽根にしてこうした行動をとったところに現実主義の岩盤の大きさがうかがえる。そういう背景の中で、新たな改憲派として登場した安倍晋三の出方が注目される。