著者
飯田 健
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.107-118, 2010 (Released:2017-03-31)
参考文献数
37

これまでの投票参加に関する研究においては,問題の本質が投票率の「低下」という変化にあるにもかかわらず,結局のところ「誰が投票するのか」という極めて記述的な問いに対する答えが与えられてきた。それらは基本的に,クロスセクショナルなバリエーションから,時間的なバリエーションを説明しようとするものであり,「なぜ人は投票するようになる(しなくなる)のか」という変化について直接説明するものではなかった。本研究ではこうした現状を踏まえ,衆議院選挙,参議院選挙,そして統一地方選挙における投票率という三つの時系列から “recursive dyadic dominance method” を用いて「投票参加レベル」を表す年次データを構築し,それを従属変数とする時系列分析を行う。またその際,失業率,消費者物価指数,与野党伯仲度などを独立変数とする時変パラメータを組み込んだARFIMAモデルを用いることで,時代によって異なる変化の要因を検証する。
著者
松林 哲也
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.47-60, 2016 (Released:2019-12-01)
参考文献数
21

有権者を取り巻く投票環境の変化は投票率にどのような影響を及ぼすのだろうか。本稿では投票環境として市町村内の投票所数とその投票時間に注目し,それらの変化が市町村内の投票率に与える影響を推定する。2005年から2012年の3回の衆院選における34都府県の市町村パネルデータを用いた分析によると,1万人あたり投票所数が1つ増えると投票率は0.17%ポイント上昇し,また市町村内の全ての投票所で投票時間が2時間短縮されると投票率が0.9%ポイント下落する。これらの効果は市町村の人口規模や人口密度にかかわらず一定である。投票環境の制約を少しでも取り除き投票の利便性を高めるためにこれまでにもさまざまな制度の変更が提案・実施されているが,本稿の研究結果は投票所の設置数や開閉時間を見直すだけでも投票率が上昇する可能性があることを示唆している。
著者
柳瀬 昇
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.74-87, 2009 (Released:2017-02-06)

2003年7月に行われた5例目の電子投票による選挙では,電子投票機の異常により 投票が中断するなどの大規模なトラブルが発生し,選挙人から行政不服申立てや選挙無効訴訟が提起されるに至った。名古屋高等裁判所は,2005年3月,投票機の異常によって選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあったとして選挙を無効と判示し,最高裁判所も,その判断を支持した。 本稿では,この岐阜県可児市電子投票事件について,事件の概要,選挙人からの行政不服申立てとそれに対する市・県選管による判断および裁判所の判断を概観したうえで,電子投票を用いた選挙の手続の瑕疵をただす方途について検討しつつ,各機関による法的判断について評釈を行った。
著者
河崎 健
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.44-55, 2015 (Released:2018-03-23)
参考文献数
29

諸外国でしばしば理想視されるドイツ連邦議会の選挙制度だが,1990年の統一以降,その構造的な問題点が研究者などの間で議論されることが増えてきた。そして2005年の補欠選挙を契機に,「負の投票価値」という制度特有の問題が露わになり,改革論議が高まったのである。その後,連邦憲法裁判所の2度の違憲判決などを受けて2013年に新制度が発足したが,選挙制度に内在する問題が完全に克服されたとはいいがたい。本稿ではこの新制度の特徴と問題点を,新制度下で初めて行われた2013年の連邦議会選挙との関連で考察する。具体的には,負の投票価値,超過議席,阻止条項そして調整議席といったドイツ特有の選挙制度の特徴について,内在する問題点について考察する。
著者
飯田 健 上田 路子 松林 哲也
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.139-153, 2011 (Released:2017-06-12)
参考文献数
25

昨今の日本政治において「世襲議員」は国会議員の最大で3分の1を占めるなど顕著な存在となっている。これまでマスコミ,評論家,政治学者などが世襲議員について再三論じてきたが,そもそも印象論的な議論も少なくなく,厳密な実証分析を行ったものは多くは存在しない。そこでわれわれは新たに構築した包括的なデータセットを用いて世襲議員の属性や政策に対する影響力を実証的に分析し,世襲議員をめぐる今後の議論に一つの材料を提供したい。本論文では,まず世襲議員の特徴を非世襲議員との比較において明らかにする。そして政策に対する影響力の一例として,世襲議員の補助金分配過程への影響を検証する。分析の結果,世襲議員は選挙における地盤や資源に恵まれており,選挙に強く,当選回数が多いということ,さらに世襲議員は自分が代表する地域により多くの補助金をもたらすということが示された。
著者
竹中 佳彦
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.5-18, 2014 (Released:2018-02-02)
参考文献数
23
被引用文献数
2

若年層の政党の保革イデオロギーへの位置づけは高齢層と異なるという知見を踏まえ,(ア)イデオロギーの自己位置づけ(イ)争点態度の一貫性,(ウ)支持政党・投票政党とイデオロギーとの相関の年齢による違いを,JIGS有権者調査(2013年),JESⅣ調査(2010年)とJES調査(1983年)を用いて比較分析した。その結果,①同一コーホートが保守化してはいないが,若年層は,保革イデオロギーを認識しておらず,認識していた場合には自己を革新的と位置づけ,②若年層にも,争点の態度空間に一貫した基底的構造はあるが,その力は弱く,また保革イデオロギー次元でない場合もあり,③40歳代以下に,支持政党・投票政党と保革イデオロギーとの相関がない場合があった。このようにイデオロギーの自己位置づけと争点態度と投票政党との間の一貫性の喪失が,若年層ほど進んでいることを示した。
著者
坂本 治也
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.5-17, 2021 (Released:2023-11-16)
参考文献数
41

既存研究では,新自由主義の進展が市民社会の活性化をもたらすことは通説的見解とされてきた。しかし,新自由主義を政策パッケージではなく人々の間で共有されるイデオロギーとして捉えた場合,本当に新自由主義の進展が市民社会の活性化に結びつくといえるのであろうか。この点を検討するために,本稿では自己責任意識と市民的参加の関係を定量的に分析する。本稿では,独自に開発した指標を用いて,2つの異なるタイプの自己責任意識を測定する。分析の結果,2つの自己責任意識は市民的参加に対してそれぞれ負の関係性をもつことが明らかとなった。自己責任意識が強ければ強いほど,人々は市民的参加を忌避する傾向が見られる。イデオロギーとしての新自由主義の進展は,市民社会の活性化につながるどころか,むしろ市民社会を衰退させる可能性が高い,という通説的見解とは真逆の結論が得られた。
著者
秦 正樹
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.45-55, 2016 (Released:2019-12-01)
参考文献数
34

本稿は,18・19歳の新有権者における政治関心の形成メカニズムについて,サーベイ実験を通じて明らかにした。若者の政治行動に関する先行研究では,主として政治的社会化理論を背景に議論される。しかし先行研究では,初期社会化と後期社会化の効果を独立に検証するがゆえに,各社会化の相互の影響については明らかにされていない。そこで本稿では,初期社会化が含意する政治規範の伝播と,後期社会化における政治利益の追及に関するシナリオを用意し,それぞれの情報が,新有権者(若年層)と既存有権者(年長層)に与える影響を明らかにすべくサーベイ実験を行った。実験結果より,新有権者は政治規範にのみ,逆に既存有権者は政治利益にのみ反応して政治関心を高める傾向が示された。以上の分析結果より,新有権者は利害に関わらず,政治システムそのものの在り方に関心を向ける傾向にあることが示唆された。
著者
善教 将大 坂本 治也
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.74-89, 2013 (Released:2017-12-06)
参考文献数
19
被引用文献数
1

本稿の目的は,日本維新の会への支持態度の特徴ならびにその背景にある有権者の論理を明らかにすることである。先行研究では,維新あるいは橋下への支持は,有権者の政治的・社会的疎外意識に基づく熱狂的なものであることが述べられてきた。これに対して本稿では有権者が抱く橋下イメージの違いという観点から,維新が支持される理由を説明する。実証分析の結果,明らかとなったのは次の3点である。第1に維新は多くの有権者に支持されているが,その支持強度は弱い。第2に政治的・社会的疎外意識等と維新支持に関連があるとはいえない。第3に橋下をリーダーシップの高い人物だと認識する人は維新を弱く支持し,保守的な人物だと認識する人は強く支持する傾向にある。つまり維新への支持が弱い理由は,彼のリーダーシップへの評価が弱い支持にしか結びつかないという点に求められる,というのが本稿の結論である。
著者
末澤 恵美
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.34-44, 2016 (Released:2019-12-01)
参考文献数
15

2014年3月16日,ウクライナのクリミア自治共和国で,ロシアの一部となるかウクライナに残るかを問うレファレンダムが実施された。ウクライナ政府はレファレンダムを無効としたが,クリミアは9割以上がロシアへの編入に賛成したとして独立決議を採択,ロシアと同国の一部となる条約を締結した。クリミアでは1991年と1994年にもレファレンダムを行っており,ウクライナからの分離運動を展開していったが,その特徴は,ロシアとの「再合同」を最終的な目標としていたこと,ソ連という特殊な国家の負の遺産が介在していたこと,自決権の行使をめぐる問題が「入れ子」のように重層的な構造であること,そして対外的な要因が影響していたことなどである。本論では,これらの点を明らかにすることによって,2014年のクリミア・レファレンダムがもつ意味を考える。
著者
リード スティーブン•R•
出版者
Japanese Association of Electoral Studies
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.5-11,254, 2003-02-28 (Released:2009-01-22)
参考文献数
8
被引用文献数
3

本稿は,日本の並立制のような小選挙区制と比例代表制を組み合わせた選挙制度においては,小選挙区に候補者を立てると比例代表制の票も上積みが期待できるという仮説を検証しようとするものである。そして,1996年と2000年の総選挙データを用い,この仮説には十分根拠があることを明らかにする。更に,そこから二つの新たな仮説を導き出す。第一は,ある小選挙区への新規参入による利得は,そこからの撤退による損失と同じ大きさということはなく,二つの値は非対称的だということである。特に,新党にとっては利得の方が大きく,既成政党の場合には逆となる。第二は,新党の場合,候補者を2度続けて擁立すると,2回目にもその選挙区での比例代表票の上積みを期待できるというものである。本稿では,こうしたことが起きる理由についても考察する。
著者
東島 雅昌
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.62-76, 2015 (Released:2018-04-06)
参考文献数
35

本稿では,中央アジアのカザフスタン,キルギス,タジキスタンの選挙制度改革を概観し,選挙権威主義体制下の選挙制度がどのように変更され,選挙制度選択にはいかなる要因が寄与しているのか検討する。野党が脆弱な選挙権威主義体制下では,小選挙区制は与党に有利な議席バイアスをもたらすかわりに,統治エリートの凝集性を弱め,結果的に体制運営に支障をきたす可能性をはらむ。こうした選挙制度設計のジレンマのもと,高い支持動員能力をもつ権威主義体制の指導者は,小選挙区制下の議席プレミアムがなくても選挙に圧勝できるため,統治エリートの自律性をより効果的に抑制できる比例代表制の選択が可能になる。中央アジアの3カ国の事例は,政治指導者の支持動員力が低いときに小選挙区制に依存し,その動員力が増したときに比例代表制へと選挙制度を変更する傾向にあることを示唆している。
著者
松林 哲也
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.58-72, 2017 (Released:2020-03-01)
参考文献数
22

期日前投票制度の創設により投票率は変化したのだろうか。投票するタイミングや場所の選択肢が増えたことにより普段は投票に行かない人々が参加するようになったのであれば,投票率は向上したはずである。一方,この制度を利用しているのが普段から投票に行く人々であれば,投票率は大きく変化していないだろう。本稿は2005年から2014年にかけての衆院選における市区町村パネルデータを用い,市区町村内の期日前投票所数の増加により投票率が上昇したという暫定的エビデンスを提示する。この結果は,期日前投票制度が普段は投票に行かない人々の参加を促した可能性を示唆する。さらに,選挙の投票所数も投票率と密接に関連していることも示し,期日前投票所数と選挙日投票所数のどちらの変化が投票率により大きな影響を及ぼすかを議論する。
著者
東川 浩二
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.97-107, 2009 (Released:2017-02-06)

我が国における選挙資金規制の問題は,いわゆる事務所費問題のように金銭の不正使用との関連で議論されることが多いが,合衆国では,選挙資金規正法は,政治活動の規模と質に直接影響を与えると考えられ,憲法が保障する表現の自由との調節をどのようにはかるかが問題とされてきた。この点について1976年の Buckley 判決で献金制限=合憲, 支出制限=違憲という定式を定めたが,規制が認められる範囲は徐々に拡大され,2003年のMcConnell判決では意見広告のための支出の制限も合憲とされるに至った。しかしながら2005年に2名の最高裁裁判官が交代すると,最高裁内部で判例変更をせまる意見が多数を占めるようになり,今や政治浄化よりも表現の自由を強化する方向の判決が相次いで出されるようになってきている。
著者
小林 哲郎 稲増 一憲
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.85-100, 2011 (Released:2017-07-03)
参考文献数
108

社会心理学およびコミュニケーション研究の観点からメディア効果論の動向について論じる。前半は,マスメディアの変容とその効果について論じる。特に,娯楽的要素の強いソフトニュースの台頭とケーブルテレビの普及がもたらしたニュースの多様化・多チャンネル化について近年の研究を紹介する。また,メディア効果論において重要な論点となるニュース接触における認知過程について,フレーミングや議題設定効果,プライミングといった主要な概念に関する研究が統合されつつある動向について紹介する。後半では,ネットが変えつつあるメディア環境の特性に注目し,従来型のメディア効果論の理論やモデルが有効性を失いつつある可能性について指摘する。さらに,携帯電話やソーシャルメディアの普及に関する研究についても概観し,最後にメディア効果論の方法論的発展の可能性について簡単に述べる。